【第53回・前編】一泊すると109円をもらえる!? 特異な旅行代理店のユーザー本位経営

クーコム株式会社 

格安の旅館・ホテルがふんだんに掲載されたサイト
 
急成長している会社に勢いがあるのは当たり前だが、得てしてその勢いのよさが独りよがりだったりするものだ。しかし、本当に真っ当な勢いのある会社は見ていても話を聞いても清々しい。そんな会社の一つにあげてもいいだろう、それがクーコム株式会社である。

その象徴ともいうべきものが同社のホームページ上にある社長のメッセージだ。社長のメッセージに共感を覚えたのは、テンポスバスターズ前社長の森下篤史のメッセージ以来だが、同社社長の西村恵治のメッセージは鮮烈で澱みがない。
 
その前に、同社は何をやっている会社かを説明しておこう。一言でいえば、ネットの旅行代理店である。こう書くと「なぁーんだ」という反応があるかもしれないが、そんじょそこらのネットの旅行代理店とは違う。
 
同社はトクー!トラベルというサイトを運営しているが、キャッチフレーズは「旅館ホテルのアウトレット! 直前予約のトクー!」である。これもよくある話で、そもそも旅館やホテルに安く泊れる料金設定になっているし、その価格は直前になるほど安いというサイトはいっぱいある。でもちょっと違うのはそのサイトの右側を見ると、「マイナストクー!市」というコーナーがあり、一泊すると109円お金をもらえる旅館やホテルの案内が出ていることだ。
「鬼怒川仁王尊プラザ 朝食付き ―109円(つまり109円もらえる)」! そんな馬鹿なと思うが、本当である。ちなみに今週の―109円の旅館・ホテルは20軒掲載してある。どれも25000円クラスの宿が、ただどころか109円もらえる。毎週金曜日の15時に予約開始となっている。早い者勝ちだが、109円をもらえる宿以外にも、109円で泊れるホテルや最大45%オフで2食付き13,000円が7100円から、などがあり魅力は一杯だ。


ホームページ上に掲載された社長メッセージの熱っぽさ
 
さて、同社社長西村のメッセージの話に戻ろう。ホームページ上に400字詰め原稿用紙に換算して15枚にも及ぶ大作のメッセージである。読み進めるとどんどんと話が広がっていくが、その話に通底しているのは旅に対する西村の熱情である。例えば、なぜこのビジネスを始めたかというくだりはこんな風に書かれている。ちょっと引用してみよう。

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ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、私どもの出発点は、「空いている部屋を利用して安価な旅を提供したい」という想いをその名に表した「あき宿倶楽部」にあります。

「どうして一泊二食しかないの?」
「平日はガラガラなのに何故こんなに高い料金設定なの?」
「旅行代理店の手数料が高すぎるのでは?」
「何故パッケージ旅行は安く個人旅行は高いの?」
旅行をするたびに、いつもこのような思いを抱いていました。
ユーザーを無視し、業者間だけですべてを決めてしまうような、古く歪な業界の体質を、何故誰も変えようとしないのだろうか、と。

「サークル的なものでもいいから、自由に自分の好きな旅行を楽しめるサービスをやってみたい」。
まさに一ユーザーの視点でスタートしたのが「あき宿倶楽部」でした。

10万円の資金とパソコン1台に電話1台、自宅マンションの一室からはじめたビジネス とも趣味ともいえないサービスです。旅行業の経験もないままにスタートしたため、宿と何を交渉するべきかわからず、専門用語も全く理解できず、大変苦労したことが思い出されます。

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誰もが考え、誰もが疑問に思うようなところからのスタートであることがよく分かる文章だ。このような思いが全編にわたって綴られているのである。普通の企業ホームページにおける社長のメッセージなどは、はっきり言っておざなりのものが多い。そのなかで、このメッセージは異彩を放っている。
「本当はもっと長かったんですが、社員に切られてしまった」と西村は述懐する。
 
西村は、ありきたりの字面のいいことを並べても意味がないという。新しい仕組みを作って展開しているので、その思いを伝えなければ駄目だというのだ。理解してもらうためにははっきりものを言うし、言った以上はやらなければならないという信念があるのだ。外に向けてだけではない。メッセージの伝達は社員にも及ぶ。言葉だけでなく、社員の誕生日にはプレゼントをする。家族や子ども、両親にもメッセージカードを送る。


安すぎてまったく信用されなかった
 
西村がこのクーコムを創業したきっかけは、引用したメッセージに書かれているのでここでは触れない。当時大手広告代理店の関連会社にいた西村は、ガラガラの時なら安くても売りたいに違いないし、そういう会員組織があるに違いないと探してみたら、なかったのだ。
 
スタートは97年10月。「こんなのをやります。参加しませんか」と企画書を書いて1000軒以上の旅館に送った。42軒の宿から参加のする旨の同意を得られた。
 
ここで西村は、旅館からコミッションをいっさい取らないと決めた。旅行代理店は高額のコミッションを取る。旅館もお客を運んできてくれるから、そのコミッションを払う。値段は高くし、他方がそれぞれに利するから2食つけて高く設定する。それだけならみんなハッピーのようだが、それで割を食うのは本来一番大切にされなければいけないユーザーだ。だから西村は「泊食分離」を謳った。コミッションを取らない代わりにユーザーから会費を取った。明朗な料金体系が生まれたのである。
 
しかし、それからが大変だった。まず最初は会員を集めることである。「1泊1200円から」と広告すると、問い合わせは多い。ところが、まったく信用されなかった。会員制で、前金で5000円から1万円という年会費を払う人はいなかったのだ。
 
収入はないので友人の会社を手伝いながら生活費を稼ぎ、なんとか生計を立てたがそれでも電気や水道を止められた。
 
会員が増えると、会報を作り、郵送をしたがコストがかかり過ぎ2、3回で止めた。そこでネットに着目した。会員が全国にいてもオーケーだ。しかし、今のようなインターネット網が整備されていたわけではない。料金が安く、ネットもつなぎ放題だった夜の10時から朝6時までを利用した。
「おおよそカネのかからないことは全部やりました(西村)」という言葉がその苦労を物語っている。

(次回に続く)

(2010・3・4)


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