【第50回】常識を超えた水と油の融合技術で青森ひばを世界に広げる

株式会社ひば倶楽部 

スプレーしておけばゴキブリも蚊もやってこない
 
青森ひばという木をご存知だろうか。といっても多くの方はピンと来ないだろう。それでは質問を変えて、ヒノキチオールという言葉を聞いたことはあるだろうか? われわれの健康志向が進むなかで、ヒノキチオールは抗菌性に優れ、防カビ、防虫効果もあり、しかも匂いが清々しいということで注目されている。

このヒノキチオールを最も含むのが青森産の青森ひばである。青森ひばが製材された後のおが粉などの廃材を蒸留してできるのが「青森ひば油」である。この油は100キログラムのひば材から僅か1キログラムしか得られない貴重なもので、このひば油に約2%のヒノキチオールが含有されている。
 
余談だが、実はヒノキにはこのヒノキチオールがほとんど含まれていない。1936年に台湾帝国大学(現台湾大学)の野副鉄男教授が台湾ヒノキから発見したことにより命名されたので、ヒノキチオールという名前がついたというのが真相だ。
 
さて本題はこれからで、この青森ひばを活用して新しいビジネスを起こしているのが(株)ひば倶楽部の代表取締役沼田大策である。
 
同社の商品のなかで最も注目すべきは「ひば健香水」という商品だ。ひばの成分(ヒノキチオール)が入ったひば油を水に溶かした商品で、スプレータイプになっており、除菌、消臭、防虫、そして精神安定に効果を発揮する。いつでもスプレーで吹きかけることができ、肌にもべとつかない。もちろん副作用もないので大変便利な代物だ。香りがいいのはいうに及ばず、カビを防げるし、ゴキブリや蚊もスプレーしておくだけで寄せ付けない。しかも、同社では一切謳っていないが、ブログなどを見るとアトピーに効くといった報告もあり、その可能性は大いに広がる。


専門家が否定したことを実現した画期的技術
 
この商品について「ひば油を水に溶かした」と書いた。さも簡単そうであるが実は違う。その前にまず、知っておかなければならないのは社長の沼田はいわゆる学者ではなく、ひばの使い方を熱心に研究してはきたが、市井の研究者であるという点だ。
 
そして、もう一つ知っておかねばならないのは、そもそも専門家の間では、ひば油は水には溶けないといわれていたことである。
 
だから通常はアルコールで希釈するか、乳化剤を用いなければならなかったのだが、アルコールを使うとコスト面からも安全性からも問題があるため、乳化剤を使って水に希釈するのがいいのではないかといわれていた。たとえこの方法をとったとしても、ひば油を水で希釈することができるなら、用途は間違いなく広がるといわれていた。
 
ところが同社は、というより沼田は、そんなまどろこしいことをせず、つまり乳化剤を使わずに水と油を融合させたのだ。ちなみにこの技術は特許申請済みである。
 
水と油の融合ムム。それができればベストの選択ではあるのだが、しかし専門家にできないという技術をなぜ沼田は可能にしたのか。
 
なぜそんなことができたのか。それには沼田がこのビジネスに取り組んできた歴史を紐解かなくてはならない。
 
沼田は勤務先の会社が倒産後、建設会社にアルバイトのような形で勤務していた。その建設会社が家の土台や幅木、窓の桟などに使用していたのが青森ひばだった。その社長がひば好きだったのだ。ひばの廃材が山積みされていた。しかもビニールに包んで香りを保管していた。それを見て、沼田は「何かできるんじゃないか」と考えた。まず、乾燥した木の破片に湿気を与えると香りが甦ってきた。今度は木に穴をあけそこに水を垂らした。それも一つの穴は木を貫通させ、もう一つの穴は貫通させずに水がたまるようにした。そうすると香りが甦り、長持ちすることが分かった。
 
くるんでいたビニールの上からもひばは匂いを発散させることに気がついたのもその頃だった。ビニールは空気や水は通さないが香りは通過させる。空気を通さないということは酸化しにくい。そこでひばのおがくずをビニールに入れ、ひば油を含浸させた。それだけだとビニールがひば油を通すので、べとついてくる。そこで、不織布をビニールの上からかぶせた。


世界規模に広がる可能性を見せるひばの力
 
こうした試行錯誤を繰り返し、でき上がったのが「香り袋」である。当然アルバイト先は辞めたが、ひばを使った商品の研究開発にはのめり込んでいった。そして次に試みたのがひば油を水で希釈することだった。
「ひば油は分子が細かい。水に希釈するためには油が多いと駄目で、しかし、油が少ないと薄くなり、それだけ効果が低くなる。できる限り濃くしたいので、水と油の割合をぎりぎりのところでやっている」と沼田は説明するが、それ以上の細かい説明は聞けなかった。特許を(申請済みだが)公開していないという状況ではやむを得ないのかもしれない。
 
香り袋や健香水以外にも沼田の挑戦は続いている。
 
その代表格が「アロマテラピーの家」だろう。これは夢の話ではない。
「技術的にはそんなに難しい話ではありません。天井裏と床にこのひばの香袋(商品名は『ひば材』)を配置し、パイプを通して空気を回すのです。それによってひばの香り(と効用)が家全体に回るようになります(沼田)」。これにより、防菌、防カビ、防虫効果があり、しかも清々しい気分にさせてくれる、まさにアロマテラピーの家ができるというわけだ。
「最近、200年住宅ということがよくいわれていますが、この200年住宅というのは、すぐ修理ができるよう部分的にいろいろな箇所が取り外せるようになっているのです。ということは、そういう箇所に香り袋を置いておくこともできる(沼田)」らしい。現在参加工務店を募集中である。
 
また、もっと広がりのある話も俎上に上っている。それはインドネシアの話だ。
 
インドネシアではデング熱がまだ多く、その媒介をする蚊に悩まされている。インドネシアにいる日本人の「ひば健香水」愛用者が、蚊の予防にこれが効くのではないかと試しているのだという。しかも現地は高温で湿度が高く、カメラやビデオなどを1週間も放置しておくとレンズにカビが生えてしまうので、これも実験を始めたそうで、こうした情報が沼田のところには日々伝えられているのである。
 
現地で実用化されるかどうかはこれからの話だが、ポイントはこうした商品がいとも簡単にネットを通じて広がっていくということだ。同社の規模は決して大きくない。むしろ零細企業といっても差し支えないだろう。しかし、ネット社会における可能性という意味で考えると、この広がりはとてつもなく大きく見えてくる。

(2009・12・22)


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