【第49回】専門老舗出版社が見せる、機動力ある超堅実経営の実像

有限会社モデルアート 

映画上映前から即日完売の出版物
 
まだ映画が上映前だというのに、その映画に関連した1冊の本がベストセラーの兆しを見せている。1800円という比較的高い値段が付けられているにもかかわらず、セブン&アイ傘下のコンビニなどでは即日完売。早くも増刷の注文が舞い込んできている。

その本のタイトルは『宇宙戦艦と宇宙空母』。B4判の大きなサイズ、フルカラーで、表紙にはタイトル通り宇宙戦艦ヤマトと思える戦艦の精密で大胆なイラストレーションが配されている。よく見ると、その下には宇宙戦艦ヤマト復活篇制作委員会の文字が見える。
 
この本の出版元はモデルアート社という老舗の模型・プラモデル専門出版社である。
 
冒頭の映画とは12月12日に公開される「宇宙戦艦ヤマト復活篇」。主題歌をジ・アルフィーが歌い、テレビでは公開記念番組が組まれる。またイオングループやサークルKサンクスなどの小売店もこれを機にイベントなどを組むようだ。
 
映画の公開前でこれだけの反響だから、映画が公開されたらさらに売上げに勢いがつくのではないかと思うのが人情で、さぞや同社も沸き立っていると思いきや、同社を訪れると、実に普段と変わりなく淡々と仕事をしているのだ。
「こういうヒットはおまけ」と同社社長の井田彰郎が語るように、実は同社のこういう反応こそが、専門出版社の「らしさ」なのであり、真骨頂ともいえるのだ。


数週間で本にしてしまう機動力が強み
 
同社は1966年の創業。同社の主力雑誌である『モデルアート』誌は、日本で最初のプラモデル専門誌であり、創刊43年に及ぶ。発行部数5万部だが堅実に発行を続けている。プラモデルが日本で生まれてちょうど50年ということだから、同社の歴史はプラモデルの歴史とほぼ軌を一にしている。
 
そもそも同社の成り立ちが面白いのだが、その話はあとに譲ろう。同社ではこの『モデルアート』以外に、数多くの別冊を出している。
 
例えば、取材時に見せてもらった船のシリーズ『氷川丸』はA4判32ページの本で、定価は1470円。これを1000部から2000部作る。こうした書籍はそれぞれの編集者がこだわったアイテムを厳選して数週間で編集し、直販ならびに全国のそうしたこだわりを共有する模型店や興味を示してくれる書店にだけ卸している。もちろん売り切ったところで利益はすぐに計上されるので無駄がなく、資金回収も早い。その上、この本の巻末には同社自らが販売する「完成品模型の限定販売広告」を掲載しているのだ。それも1点2万~3万円の価格である。これもまた売り上げにつながる。
「専門誌はこういう別冊を機動的に出していけるところが強み(井田)」という通り、この種の本を次々に出版することにより、売り上げ自体は少額でも利益がしっかりと確実に積み重なっていくビジネスモデルとなっているのだ。
 
また、「キングタイガー」という戦車の別冊は英文和文併記である。本をめくってみると次々と戦車の部分の写真が並べられている。素人にはわからないが、マニアにとって、今まで見たこともない「部分」が載っているだけで、垂涎の的。しかもこの種の興味は万国共通だから、和英併記で海外にも売れることになるのだという。
 
実際「海外でもそうとう売れた(井田)」そうだ。
 
こうした本の作り方も専門出版社ならばこその取り組み方だ。この種の写真が現存するのは海外。だから、海外から調達する。
「例えばメッサーシュミットでいえば、ドイツミュージアムには山ほどそのような写真がある。それをドイツに依頼してひたすらピックアップして日本に送ってもらう。それをまとめる(井田)」のだという。聞いていると簡単そうだが、しかし長年培った関係者やマニアのネットワークがあってこそ可能な機動力ある出版といえるだろう。


89歳から有名人まで幅広い読者層
 
また、プラモデルや模型といったジャンルは年齢層が幅広いことでも知られている。
「最年長の読者が89歳。70代の読者もかなりいる(井田)」そうで、有名なのは俳優の石坂浩二さん。石坂さんは年配のモデラーの集まり「ろうがんず」を立ち上げ、普及活動を行なっている。2007年の団塊の世代の定年退職を機に、こうした年配モデラーたちがこの市場に帰ってき始めているがゆえに、石坂さんのような行動は市場を活性化するのに役立っているのだろう。

写真のメッサーシュミットは石坂浩二さん作

 
現在のプラモデルはどんどん専門的な分野に細分化されていっている。例えば日本を代表する戦闘機といえば零戦だが、マニアでもない限りそれが15種類もあったことなど知りはしない。プラモデルのメーカーはこの種類全部を発売しており、マニアは多少価格が高くても買っていく。
 
そこでまた同社の出番がくるのだそうだ。
「例えばプラモデルの世界は単に作り方だけで、本ができているわけではありません。例えば塗装の仕方だけでも本になる。ゲームの世界でいう一種の攻略本と同じです」と井田は説明してくれた。なるほど仮に15種類の零戦があるとしたら15種類の作り方があり、塗装の仕方があり、いろいろな装飾の仕方がありと、情報も無限に広がっていく。裾野の広いビジネスだということがよくわかる。


いくらガンダムが流行っても流されない
 
そもそも同社の歴史とはどういうものなのか。同社は井田の父親である井田博が戦後北九州市で模型店を営み始めたのが出発点である。その父が1966年単身上京し、雑誌の発行を手がけ始める。最初は少部数の発行で、書店ルートと模型店と売っていたが、赤字続きだった。しかし、内容を吟味し、今人気のあるプラモデルはどのようなものなのかを調べ、人気の商品の分野を雑誌に反映していき、少しずつ部数は上昇した。そのあたりのくだりは『日本プラモデル興亡史』(井田博著 文春文庫)に詳しいが、当時から、プラモデルに的を絞った出版を維持しているのだ。
 
模型・プラモデル専門誌はもちろん他にもある。以前は専門出版社のみだったが、近年は大手出版社も参入している。それでも同社が強みを発揮できているのは、他の雑誌が、ガンダムやフィギュアといった流行を追いかけて内容を大きく変更させていったのに対して、頑にその内容を守っているからだ。
 
現在、同社の雑誌は日本のみならず19ヵ国で販売されている。フランスやドイツに強く、最近では東欧、ロシア、中国などでも盛んになってきている。
 
こうして話を聞くと、こうした専門分野の出版ビジネスというのは、インターネットを利用するビジネスに向いていることが分かる。こうしたネットの利用を促進することで、さらに裾野は広がっていくのだろう。

(2009・12・8)


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