【第48回・後編】素人発想で奇跡的な製品開発をした老舗企業の未来

山本化学工業株式会社

【前号のあらすじ】
 
北京オリンピックの高速水着問題で、国内メーカーに高速水着の素材を提供するとした山本化学工業の申し出は結果として実らなかった。しかし2009年ローマで開かれた世界水泳選手権では、同社製素材の水着が80%も使われ、史上最高の43の世界新記録を生み出す原動力となった。その開発の背景には、江戸時代から続く同社のもの作りの開発精神がみなぎっていることが分かった。ところが、同社の成功に水をさす問題が勃発したのだ。

国際水連がラバーを禁止しても、もっと上をいく
 
2009年7月、ローマでの世界水泳選手権と並行して開かれた国際水連の理事会では、ある重要な決議が採択された。その決定とは、競泳選手の着用する水着は水を通す織物製のものに限るとし、2010年以降、ラバー製の水着を全面的に禁止したのである。これではせっかく開発した山本化学工業製の素材は使えなくなってしまう。

「実は、国際水連の決定の10数日後の8月10日に新しい水着を発表しました。これは織物製で、引っ張って広げると向こうが透けて見えます」
 
山本はそういって私にそのサンプルを見せてくれた。確かに繊維でできていて、向こう側が透けて見える。水は片方からは通るが反対側からは通らない。したがって水の抵抗を受けにくく、現在の水着と性能はほとんど変わらないそうだ。
「昨年の11月にはこの水着の開発を始めていました。国際水連の動きを考えるといずれラバー製は禁止の方向に行くだろうと考えてました(山本)」というのである。同社はこのサンプルを世界中のメーカーに発送したそうだ。
 
さらに競泳選手は水の抵抗をなくすためにキャップをかぶるが、これについてはラバー製の素材は禁止されていない。したがって、これらを組み合わせると、従来と同じような効果が期待できる素材をサポートすることは可能なのである。
 
こうした同社の製品はほかの面でも大変注目されつつあるが、それは後述しよう。


水着の秘密は「バイオラバー」という独自の技術にあり
 
そもそも同社のラバーとは何だろうか。ラバー=ゴムにもいろいろある。ゴムの木から採れる天然ゴム、石油を原料とする合成ゴムなどさまざまだが、同社の製品はそれらと異なった成分を持つ製品である。これは、新潟県黒姫山で産出される石灰石から採り出した極めて純度の高い(99.7%)炭酸カルシウムを主原料として、金、プラチナなどの鉱物や炭素を配合した合成ゴムで、商品名を「バイオラバー」という。このゴムを使用し、用途に応じていろいろな開発をしてきている。
 
例えば、水着の発端となったのは、海女さん用のラバー製のウェットスーツと前号で書いた。このときは体をできるだけ冷やさないためにチタン合金で熱反射させて温かくするという工夫を施している。また水着では、ラバーの表面に特殊な加工を施すことにより、表面抵抗値を著しく低くすることを可能にした。これが選手の記録につながったのだ。北京オリンピックで注目された英スピード社製の水着の摩擦抵抗係数が1.35に対し、「バイオラバー」のそれは0.021という。また競泳用の水着以上に、トライアスロンの分野では90%以上の競技者が同社製の素材を着用しているようだ。


いい電磁波のみを身体に放射する蜂の巣構造
 
さて、同社はスポーツ用の素材ばかりを提供しているのではない。これらの分野よりもさらに注目されているのが健康用途の製品である。それには、もう一つの秘密を解き明かさなければならない。
「バイオラバー」は特殊な合成ゴムと前述したが、実はもう一つ大きな特徴がある。それがハニカム構造と呼ばれるその構造だ。ハニカム構造とは分かりやすくいうと蜂の巣の構造のこと。蜂の巣は6角形の部屋が寄せ集められた構造になっているが、これが応用されているのだ。つまり「バイオラバー」はミクロン単位の細かな6角形の気泡(1ミリに約23個)が集まった構造になっている。これを作るのは並大抵ではない。それを可能にしたのが、技術はもちろんだが、高純度の炭酸カルシウムを含む石灰石なのである。
 
ではこのハニカム構造のよさはどこにあるのか、簡単に説明しよう。
 
人間は常に電磁波を放出している。また、人間は外部から多くの電磁波を受けている。電磁波にはいろいろな波長のものがあり、目に見える電磁波を可視光線という。虹はそのいい例だ。目に見えない電磁波のうち長いものを赤外線、短いものを紫外線という。紫外線のさらに短いものにX線やγ線などがある。大雑把にいって、短い電磁波の紫外線は身体に悪く、逆に赤外線は身体にいい効果を与える。
「バイオラバー」に電磁波があたると、このハニカム構造の細かな気泡にぶつかって乱反射と集約を繰り返し、その結果、身体にいい電磁波のみを放射することになるというのである。


腰痛がどこかに消えてしまった
 
こうしたことを書くと、どこか眉唾ものという印象を持たれると思うのでこれ以上詳しく書くのはよそう。社長の山本によると、このバイオラバーを開発した当初から、いろいろな患者が使い始め、その効能が口コミで広がったのだそうだ。そのうち、患者の効果を見て、これを医療で使いたいという人が出てきたのである。いろいろな学者がこの効果を研究しており、2007年にはアメリカ臨床腫瘍学会が主催するシンポジウムで、日本の学者によって、前立腺がんの抑制効果が発表された。これらが医学的に確固とした証明を受け、法律的に医療効果があると認可されたなら素晴らしいことだが、それはまだ途上である。効能を謳って販売することはできないが、それでもユーザーは増えているのだろう。
 
私は同社の販売を促進するために書いているのではない。しかし、こういうことを敢えて書くのは、
自分が使ってみた結果がよかったからだ。
 
取材に行ったとき、社長の山本から1辺が10センチ程度の小さな三角形のバイオラバーを手渡された。使用法に従って腰に装着したのはその夜のことだ。以来、風呂に入るとき以外、このバイオラバーを外したことがない。
 
文章を書くことが多い私にとって、座りっぱなしは腰痛につながる。実際、腰から背中にかけての筋肉は非常に凝っている。そもそも小さいときから腰痛持ちだった自分にとって、最近、書く作業が大変つらく、すぐに集中力が途切れてしまうのだが、これを装着してからは1度たりとも痛みを感じたことがないのである。
 
それは感覚だけの問題かとも疑い、スポーツマッサージの治療室に2週間半ぶりに行ってみた。普通、1週間に1度いかなければどうしようもないほど腰痛がひどい私にとって、痛みを感じなかったからとはいえ、2週間以上もマッサージ治療を空けるのは大変なことだった。ところが施術師の反応は私の想像通りのものだった。
「松室さん、十分な休暇を取られたようですね。腰の状態が今までにないほどいいですよ」
私は、その彼にことのいきさつを説明した。

同社は海外からも注目されている。アメリカのハーバード・ビジネス・スクールは、授業のケーススタディとして取り上げるために同社を訪れているほどだ。もちろん山本は、この技術をさらに広げていくために研究を重ねている。動きも既に出ているようだ。
「アイフルホームとはバイオラバーの部屋を開発して、来年1月から販売予定です(山本)」
 現在の同社売上は約78億円、営業利益は13億円(共に前年度)。
将来、どんな企業に発展していくか、楽しみは広がっている。

(2009・11・17)


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