【第46回】顧客がファンになっていく! 稀有な会社の大切にする「力」

株式会社ファクトリージャパン

上顧客がおカネを払ってパーティーに参加する
 
優良企業の条件のひとつに、顧客を大切にする企業が上げられるのは誰もが知っているとおりだが、それを越えて顧客が企業のファンになるという会社に出会った。
 
それが全国に約80店舗の整体サロン「カラダファクトリー」を展開する(株)ファクトリージャパンである。

こう書くと、そんな会社があるのかと疑う向きがあるかもしれないが、同社が毎年行なっている恒例の顧客への感謝のイベント「ロイヤルカスタマーパーティー」を見るとそれがよく分かる。
 
今年の同社のパーティーは5月29日にヨコハマグランドインターコンチネンタルホテルで行なわれた。来客数はざっと400人。そのほとんどがおカネを払って参加している同社の大切なお客なのである。
 
パーティーはまず同社代表取締役の子安裕樹の挨拶から始まったが、見ものは同社社員によるダンスのパフォーマンスである。お客も一緒にリズムをとり、パフォーマンスにどっと沸く。社員と顧客が一体となってパフォーマンスは最高潮に達した。このお客との一体感は何か。そもそもなぜ、お客がファンになるのか。常識的に考えれば、大切なロイヤルカスタマーを集めたイベントを行なうということは「招待する」ということであって、おカネを払わすことはしない。その1点を見ても同社には大きな、魅力的な謎がある。
 
この謎を解き明かすことが同社の躍進の秘密を解き明かすことでもある。


お客が喜んで、また来てくれる店を作る
 
同社の設立は2001年8月。設立以来わずか8年しか経っていない。同社代表取締役社長の子安裕樹が同社の前身となる横浜南整体院を開業したのが1998年だから、それを併せても10年に満たないことが分かる。
 
横浜南整体院の名の通り、子安も整体師である。
「学生のときラグビーをやっていたので、こういう仕事には縁があったんです」と子安はいう。
「でも、あるとき重度の腹痛で病院に行ったとき病院の対応は実に素っ気なかった。問診票に記入させ順番待ちを強いる。こちらは熱もあって早く見てほしい。やっとのことで順番が回ってきたら、医者は事務的に『どうしました?』から始める。これじゃ駄目だと思った(子安)」
 
学生時代にラグビーと決別し、少ない資本で潰れたイタリアンレストランを買い取り、それを成功させたものの、売り払って、次のことを考えているときだった。医者がこれでは駄目だ。身体を見る人はもっと患者のことを考え、その人のために尽くすようでなければならない。そんな気持ちから、子安は整体師の道を目指した。
 
しかしここでも「有名な先生といわれる人が魅力的ではなかった(子安)」そうだ。
「例えば、首を治すときに髪を引っ張られると痛いじゃないですか、それじゃ駄目なんです。技術だけでは駄目で、思いやりがなければいけない」
 
98年に28歳で開業した子安は、お客が喜んでくれ、必ず繰り返し来てくれる治療院にしようと考え、実行した。技術はもちろんだが、中年男性、主婦、老人など人によってかける言葉を変えた。治療が終わると、患者をベッドに座らせ、身体の状態がどうなっているかを骨模型を使って説明した。元気づけて欲しそうな人にはそう言葉をかけた。どうすれば身体を維持できるかをお客に伝えた。
 
お客の反応も「こんなによくしてくれた人はいない」と上々で、この評判が口コミで広がっていった。3ヵ月後、広告もほとんどすることなしに、1日8人・毎日営業の整体院の予約台帳は一杯になった。


社員教育のポイントはプチ社長作り
 
こうして2件目をオープンするときにまた問題が起こった。最初に採用した社員に次の店を任せたが、中途で採用した人はみんなその社員より年上で、経験も豊富だから、いうことを聞かなかった。そこで初めて子安は気がついた。自分の分身を育てていかなければならないと。以来、同社では施術者に関しては新卒しか採用していない。
「プチ子安を作ろうと考えた」と子安のもとで第1号社員となった現常務取締役の小牧めぐみは語る。自ら年上の経験者に苦労をさせられた経験を生かし、子安が実際に行なっていることをマニュアル化していった。そして学校を立ち上げた。
一番時間をかけるのはラストコミュニケーション。終わってお客さんを座らせ、骨模型を持ってきて説明するなど、子安のやり方をいかに学ぶかがポイントとなる。
「お客さまはどこかで悩んでいる。眠れない、身体の不良、心の悩み。そういう人たちに思いやりをこめて笑顔で接し、その悩みを気づいてあげる。それができなきゃお客さまを幸せにできない」と子安はいう。
 
いいかえるなら、「社員の一人ひとりがミッキーマウスのようなシンボリックで人から愛されるキャラクターになってほしい(子安)」と考えているのだ。
 
だから研修も、次の日から先生になったつもりで行なう「なりきり研修」、いい先生の真似をする「ものまね研修」、メイクや服装を変える「ビジュアル改造研修」など、多彩である。


おカネを払ってまで踊りを見に来てくれるか?にチャレンジ
 
さて、冒頭に紹介した「ロイヤルカスタマーパーティー」はそんな社員との関係のなかで出てきたイベントである。そもそも同社では、社員は本社での会議ではスーツを着用しなければならない。ともすれば私服で来て帰るような生活になりがちだから、けじめをつける意味があるし、社会性も出てくる。後は、ミッキーマウスのように踊って歌える場があればいい、と子安のなかに漠然とした思いがあった。
 
あるとき、子安が施術の社員にどれだけお客がついているかと問うと、「コアなお客様がついていてくれる」と答えた。ではそのお客さまは、イベントをやればお金を出してまで来てくれるかと問い返すと、社員から自信たっぷりな返事が返ってきた。それならやってみよう、ということで2005年にスタートしたのである。
 
それにしても社員に踊りをさせるのは大変なことだろう。社員のなかでダンスが得意な女性を先生にして、夜中、明け方まで1ヵ月猛特訓を行なったという。
「最初は100人呼べたら立派だと思っていた」と子安は当時の胸のうちを明かす。それでも300人の席が満席になった。


予算もノルマも存在しない地域一番店
 
子安のお客とのコミュニケーションの原点は何か。それを知る面白いエピソードがある。それはまだ同社の設立前、イタリアンレストランを買い取った頃の話である。
 
ある日お客がウェイターにビールを注文した。ところが、その店にビールは置いておらず「イタリアンレストランですからワインしかありません」とウェイターが答えた。それを聞いていた子安はそこに飛んでいき、「買ってきます」といって近くのコンビニでビールを買ってきてお客に供したという。そんなお客の要望をかなえるように店を変えていき、赤字でつぶれた店はあっという間に黒字になった。もっとも最後に一番売れたのは「ざる蕎麦天丼セット」と「じゅうじゅう鉄板焼き定食」だったそうだが。
 
こんな同社には予算が存在しない。社員にはノルマもない。会議で聞かれるのはお客さんはどんな人で、嫌われてないか、ということだそうだ。それこそが地域一番店であるための指標なのだろう。
 
今後同社は年間30店舗のペースで出店をしていく。また理念と経営方針を共有できるならという前提で、フランチャイズも行なっていく予定である。もっとも、そのためには厳しい面接を何度もこなさなければならないらしい。
 
そして海外展開も。
「今年の9月に台北でカラダファクトリーをオープンする」という子安は、そのロイヤルカスタマーパーティーが終わり、社員や関係者と夜遅くまで過ごした後、ほとんど寝ずに台北へと飛び立っていった。

(2009・7・28)


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