【第41回】社員がひとりでに自立していく、すこぶる元気な会社の秘密

株式会社アイル

不自然さがない元気な会社
 
1991年、大塚商会でトップセールスだった男が、その部下たちと会社を興した。マンションの一室、社員6人でスタートした会社は、社長の一声で毎月詳細な月報を元に報告会を開催した。ある社員はそんなことをしなくても分かる、といったが社長は信念に基づいて、その報告会を続け、上場した今なお続けている。新人は1年間毎日日誌を書く。まるで教育機関のような会社、それが(株)アイル。いい会社なのだ。

会社を測る尺度はいろいろあるが、業績以外で会社の将来性を見るには、その会社を訪ねてみればすぐ分かる。アイルはその典型だ。
 
アイルの社内に入ると、誰からともなく元気な挨拶がなされる。よく、全員がすくっと立ち上がって挨拶をする会社があるが、そんな不自然さは微塵もない。社員が自らの判断でやっている、そんな雰囲気なのだ。
 
同社は1991年、主に中小企業向けにシステムソリューションをする会社として現社長の岩本哲夫が創業した。当時、システム化の波が企業に浸透し始めていた。といっても、1人1台のパソコンすら実現していない頃の話だ。
「特に中小企業の立場に立ったシステム構築の相談にのるような会社はなく、ここにビジネスチャンスがあると思った」と岩本は当時を振り返る。
 
しかし、ここで一つ難点があった。岩本は営業として活躍していたが、技術的なことに知識はない。そこで勉強をした。それも技術のみならず、生態系、複雑系といった相当知的な分野まで、貪るように知識を吸収した。


午後は社員に任せ、昼からは自宅に帰って犬の散歩
 
会社は順調に成長したが、94年から3年間、停滞期に陥った。売上5億円、社員30人程度で成長がストップした格好だったが、「外的な理由しか考えていなかった(岩本)」
冒頭にも書いたように、毎月の詳細なレポートによる報告を続けていたが、「結局、自分が把握していないと気がすまないことに気が付いた(岩本)」
 
そこで社長自らが変わった。
「任そうと思った」と岩本は端的に当時の気持ちを表現する。そして実際に行動に移した。昼から岩本は帰ってしまったのだ。
「朝8時には出社してましたし、お客さんには午前中に来てもらった」ので不都合はなかったという。本人は、自宅に帰り犬の散歩などをしながら、いろいろな問題点を整理し、分析していた。一人になる環境を作ったことでその大切さを学んだ。
 
会社も、機を一にして再び成長カーブを描き始めた。
「トップの考えが変わるということは、自分が思っているよりずっと大きい」と岩本は振り返る。
 ここから同社は、社員が力を発揮し始める。まず、95年から始めた新卒採用の人材が育ち、戦力になり始めた。96年には、パソコンのスクール(現アイルキャリアカレッジ)を開校した。当時、社員がパソコンに習熟していなかったため、スクールに通ったことが発端で、僅か4カ月で立ち上げた。
 
2000年には求人求職サイト「@ばる」を立ち上げ、翌年には東京に進出した。
 
05年にはWeb活用戦略支援サービス「Webドクター」を開始し、現在の同社の基幹事業である「システムソリューション事業」、「人材ソリューション事業」、「Webソリューション事業」の三本柱が確立した。こうして事業が拡大し、社員も増えていった。
 
実はこの事業の多角化が、同社の強さを生み出す原動力になっている。
 
例えば、97年頃から成長軌道に乗り始めたと書いたが、当時は金融危機が起こり、銀行の貸し渋りで中小企業は苦しめられていた。本来なら、環境の悪化で思うように売上げが上がらないはずなのに、なぜ業績が伸びたのか。
「一つの事業が悪くてもそれを別の事業がカバーしてくれた」と岩本はいう。システムだけで事業をしてなかったことが生きたのだ。


社員と社長の関係はフィフティフィフティ
 
岩本はこの事業の多角化を「クロスオーバーマネジメント」と呼んでいる。モノを作れば売れた時代、安いモノが売れた時代、良いモノが売れた時代を経て、現代は組み合わせが売れる時代だという。会社創業時に勉強した複雑系・生態系理論に基づいたビジネス展開で、単なる多角化ではないのだ。
 
実際、その効果は大きい。あるフランチャイズチェーンの顧客には、人事募集のホームページ作成からはじまって、基幹システムまですべてを同社がこなしている。
「一切合切全部できるのはうちだけ(岩本)」というのが最大の強みになっているのだ。
 
考えてみれば、クロスオーバーマネジメントとは、事業が相互補完的であると同時に、相互好循環的でもある。一つの事業がよければ、それが他の事業も伸ばしていくのである。
 
冒頭に同社は活気があると書いた。それは、社員に自立と責任を問うているからだろう。
「社員と社長の関係はフィフティフフティ」という岩本の言葉がそれを象徴していて、創業時から続けている月報会議でも、入社2年目にして、社長のような発言が出る。
 
こんな雰囲気はなぜ生まれたのか。それは社長がやるべきことをきちっとやっているからだろう。月報には何ページにもわたって社長のレポートが載るが、自ら丸二日かけて執筆する。新人の毎日の日誌には必ず目を通す。社長との会食を定期的に持ち、優秀な成績を収めた社員は海外研修に行かせる。
 
こういう社長なら、社員は自立もするし、ついていこうとも思うはずだ。
 
面白い話がある。同社には社内だけで頻繁に使われる「アイル語」なる言葉が存在する。「思い切りバットを振る」、「どの道を選ぶかより、選んだ道でどう生きるか」、「細部にこそ神は宿る」、「不安のお化け」等々。
 
これらの言葉は、実は月報に社長が書いた文章のなかから社員がピックアップしたものなのだそうで、それを社員が共有しているのだ。
 
社長が書いて残した言葉は、言いっ放しとは全然違う重さがある。社長だって書いたからには実行しなければならない。
 
この会社は有言実行の会社なのだ。

(2009・3・3)


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