【第38回】新鮮で美味しくしかも安いスパゲティー店の価格戦略

株式会社ポポラマーマ

この不況下で出店攻勢をかける

「物は相場の七掛けで売れるようになる」とは、ペガサスクラブ創始者の渥美俊一がいった言葉だそうだ。この理論を実践しているのが、東京都江戸川区に本社を置く(株)ポポラマーマである。
 
同社は茹であげ生スパゲティ専門チェーン『ポポラマーマ』を運営する外食産業の成長株だ。創業者で社長の安家美津志は、創業前、まだ別の会社の幹部として新規事業立ち上げに奔走していた時に、この渥美俊一の講演テープをことあるごとに聞いていた。

その後独立し、生スパゲティの店を出す段になって値段をいくらにするか迷っていたときに、ふと、冒頭の言葉が甦ってきたのだ。
 
相場の七掛け――。この言葉を思い出して、それまで解決できなかった価格に関する迷いを払拭した。
「ファミリーレストランでのスパゲティの平均的な価格帯は680円から700円でしたね。だから、うちはそれを七掛けして490円にした」安家はそう回顧する。
『ポポラマーマ』はこの安さと、新鮮さが売り物の生パスタという商品力に支えられて、95年の創業以来、成長を続けてきた。現在年間の出店数は14~15店。総店舗数は109店(09年1月現在、フランチャイズ加盟店32店を含む)である。昨年11月から今年の1月にかけても5店舗を出店するなど勢いは衰えていず、この不況下での実績であることを考えると、なかなかのものだといえよう。


廻り回って生スパゲティにたどり着いた
 
そもそも社長の安家は学生の頃、牧場経営をやりたいと考えていた。ところが、いざその夢を実現しようとすると自分は何にも牛のことが分かっていないのに気づいた。牛を牧場で飼うといってもそれは乳牛なのかそれとも食用牛なのか、あいまいなことが多過ぎた。
 
そこでダイエーミートに入社する。当時、肉を扱わせると日本一だった会社である。ところが、7年近くいたがダイエーミート解体の憂き目にあう。当時、同社で新規事業を手がけていた安家とその仲間は、すかいらーくの傘下、グリーンテーブルという焼肉レストランを始めることになった。ところが、3年間で5店舗を運営したが思うようにはいかず、この事業からも撤退し、安家はシチエ(現ウェアハウス)というアミューズメント運営会社に移る。ここでも新規事業に携わり、小さな規模で開店できる外食のフランチャイズ事業を担当した。
 
ここで出会ったのが、スパゲティである。ドリア、グラタン、ピザ、パスタなどをメニューにしていたが、ドリアやグラタンはメインにはならず、ピザはデリバリーが圧倒的に強かった。そこでパスタを強くしようと考え、いろいろな店のパスタを食べ歩いた。そこで生パスタの美味しさに気づく。
 
これだと思い、3分で生パスタを茹で上げる装置を開発し、何とか立ち上げた。ところが今度は利益が出ない。売り上げが上昇した分、経費もかかってしまったのだ。
いろいろ考えたが、結局、店の坪数が大き過ぎるという結論にいたった。そこで、経営者に20坪くらいの小規模な店での展開を具申したが、当時はどの業種も大規模店が 主流になりつつあった。提案はあえなく否定され、経営者からはそれほどその規模にこだわるなら自分でやればいいと、勧められる。
「これも何かの運命かなと思って、独立することにしました」と安家は当時を振り返るが、自信をもって行なった提案が否定されたことへの反発もあったのだろう。そして冒頭の価格設定に話が戻るのだ。


安いスパゲティをさらに100円引き
 
490円という安さと、生スパゲティの美味しさとで店は活況を呈することになった。
 
しかし疑問は残る。それは、なぜその価格でやっていけたのかという単純な疑問である。普通、仕入れ価格や人件費などからコストを算出し、売値を決める。だが安家は最初に価格を決めてしまったのだ。
 
売値を決めてしまうと、とにかく安い素材を仕入れようとする。すると安かろう悪かろうになってしまう心配はないのか、その問いに安家は「安い商品を必要とする情熱がその問題を解決してくれた」と答えた。情熱をもって探せば、必ずそういう商品に出会うということらしい。
 
94年12月、西葛西に1号店を出し、翌95年4月には2号店を出店した。退職金や親の遺産、区の融資制度などをフル活用して出店費用に充てた。どちらも十数坪の小さな店舗だった。こう書くと、順風満帆にやってきたようだが、実は当初、安家に不安がないわけではなかった。そもそも、パスタだけで客が呼べるのかという根本的な不安だった。
 
そこで、調べてみるとパスタとケーキだけで3000万円を売り上げている店があることを知り、社員をケーキ屋に研修に出し、同じメニュー構成にしたのである。95年12月には3号店を東京江東区木場のイトーヨーカ堂内にオープンした。
 
現在、同社ではさらに100円安くした390円のメニューを開発した。攻めの姿勢を崩さないというわけだ。実際「ニンニクと唐辛子のスパゲティ」は390円。これは相当に安い。しかも同社は年3回半額セールを行なっている。店舗数も増え、現在は細かなコストを見直すなど、業務改革プロジェクトを推進中だという。
 
消費が急激に細り、多くの小売・外食が低迷するなか、「安さ」が一つのキーワードになってきている。その意味で同社の戦略は今「旬」である。しかし、安家はあくまでこれにさらに磨きをかけるために手を打っている。生き残りをかけた熾烈な外食戦争のなかで、生き残る会社はこんな会社かもしれないと実感させられた。

(2009・1・27)


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