【第31回】家業を発展させる新事業で上場した3代目社長の起業家精神

株式会社ビットアイル

パソコンオタクの目に留まったビジネスチャンス
 
家業の倉庫業を継いだ男が、その倉庫を使って新たなビジネスを展開した。その新事業はインターネットのデータセンターである。このために新会社を作り、やがてその会社を上場へと導いた。
 
そもそもデータセンターとは何か。インターネット通信を行なう場合、すべての情報は「サーバー」を経由して届けられる。では、このサーバーはどこにあるのか。それはデータセンターという第三者の場所に置かれているケースが圧倒的に多い。

今から遡ること9年ほど前の話である。三菱商事を辞め、家業である寺田倉庫に入社していた寺田航平(現ビットアイル社長)の許に、外資系の通信会社9社がある提案を持って訪れた。
倉庫会社に何の提案かという思いの寺田倉庫に、彼らは倉庫を利用したデータセンター事業をプレゼンしたのである。
 
これに敏感に反応したのが、寺田だった。小学生の頃から筋金入りの「ウルトラ・パソコンオタク」だった寺田の目には、これはビジネスチャンスに映ったのだろう。システムは一度始めたら止めることが出来ない。しかも情報量が増えれば増えるほど、サーバーにかかる負担は大きくなる一方である。それにしても、この運用コストが高すぎる。これはおかしい、と寺田は考えた。そして、より安価に運用できる仕組みを作ればこれはビジネスモデルとしてうまくいくと。
 
そして、2000年6月にビットアイルを設立した。素早い取り組みだった。


コストの安さが決め手となった
 
データセンター事業というのはカネのかかる事業である。膨大なスペースと、それに応じて費用がかかる。仮にスペースがあっても、顧客がいなければスペースは埋まらず、いたずらに費用の垂れ流しとなる。だからというわけではないが、当時こうした事業は大手通信事業者の二次的な事業だったのである。大手ならその無駄をカバーできる資本力があったからだ。
「そもそもデータセンターは固定費が高いビジネスですが、大手は安全性を重視する余り、過剰なリスク回避を行なっていた。われわれは、カネがないから(笑)、20項目にわたって、細かくコストカットを行なった」
 
それが、価格の差になった。
 
さらに言えば、寺田には地の利があった。それは株主の寺田倉庫自体が倉庫業を営んでいたことである。親会社と交渉し、たまたま移転が決まっていた倉庫の跡スペースを顧客数の増大に応じて1床ずつ借りていった。これでコストを抑えることができた。だが、営業自体は相当苦しんだ。
「営業に行くと相手が聞いて来る。『やはりNTTのほうが安心じゃないか』と(寺田)」。そのため当初2年間は、社長プラス3人の営業4人で、ベンチャー企業、中小企業をこまめに歩き実績を積み重ねていった。そしてコストの安さが決め手となって徐々に信頼されるようになってきた。
 
同社の業績は06年の大証ヘラクレス上場以降も順調で、07年7月期の売上高は52億600万円(前年比47.5%増)、経常利益7億6300万円(同49.6%増)。08年7月期の見込みは売上高72億9800万円、経常利益11億円とさらに40%以上もの成長を示している。
 
それにしても、なぜこれだけの成長が可能だったのか。
「安売りをしているわけではない。サーバーを預かるだけでなく、回線の接続、サーバーのレンタルなど、付加価値を付けていく(寺田)」
 
こうした、提案力の差が大きいと言うのである。さらに寺田は続ける。
「データセンターを利用するベンチャーは企業として、初期の段階は終わっているところです。そういう客は、さらにスペースを増やしていく」
 
データセンターを利用する客は、いわゆるB to Cの客である。彼らのビジネスが拡大すれば、データ量は増える。すなわち、データセンターの利用も拡大するというわけだ。実際、同社の売上げの50%を占めるのは、こうした既存客の増床による。新規客の獲得プラス、既存客の増床。年率40%もの成長も頷けよう。


業界予測のさらに3倍は伸びる
 
このデータセンター事業は現在7000億円市場である。予測ではさらに14%成長が見込まれている。しかし寺田はそんなものではないと考えている。現実に中期計画でも40%もの成長をうたっている。
「着メロが着うたに変わるとデータ量は12倍に増える。ゲーム機は対戦型になってますますデータのやりとりが増える(寺田)」
 
こうしたデータ量は、これからますます増大していくと言うのである。さらに、同社はサービスの幅を広げていくことで、新たな売上げと利益の拡大を見込んでいる。電子商取引を一括で行なえるようなサービス、また、セキュリティを徹底して行なうサービスなどである。当然、設備投資が重要なファクターとなる。同社は現在3つのデータセンターを有しているが、09年中を目標に第4センターの建設を発表している。投資額は70億円。自己資金21億円で借り入れは49億円。
「大体2年に1センターを作るペースです。この次の第5センターになると自己資金でまかなえるようになるのではないか(寺田)」
 
自信と気迫とを同時に覗かせる寺田の顔が、ほころんだ。ところで、寺田が寺田倉庫に入社した時の心境を聞くと正直に答えたものだ。
「どちらかといえば、継がなきゃいけないのかという気持ちが強かった」と。寺田は37歳と若いが、2代目にありがちな格好を付けるところがない。むしろ泥臭ささえ見せる。これが寺田の強みなのだろう。
 
何故起業したのかと聞くといみじくもこう答えた。
「祖父は倉庫業を興した。父はトランクルームやデータ倉庫としてそれを伸ばしていった。自分にもそういうDNAがあるのではないか」と。私にはそれが決意に見えた。

(2008・9・2)


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