【第30回】伝説の大ヒットを生み出した理論派創業社長の感性と遊び心

株式会社ウィズ

2005年には上場を果たした
 
世界で最も権威があるといわれるオックスフォード英語辞典を紐解くと「tamagotchi」の文字を見つけることができる。
そう、「たまごっち」である。「たまごっち」が世に出たのは1996年。当時20万台も売れれば大ヒットだったおもちゃの世界でなんと国内2000万台、海外2000万台の計4000万台を売り上げ、社会現象を引き起こしたのだから、権威ある英語辞典に掲載されて当然かもしれない。それほど世界に対してインパクトがあったのだ。

私もよく覚えている。ヒット当時、ダイエーの創業者である故・中内 功(実際は作りは力でなく刀)と立ち話をしていたら、ふと中内さんが漏らした。
「孫にたまごっちを頼まれちゃってねぇ」
 
どこも売り切れで品物すら入ってこない状態だったのだ。
ところで、「たまごっち」はバンダイが販売を担当していたこともあり、作ったのが株式会社ウィズであることを知る人は少ない。
おもちゃの世界には伝説的な大ヒットがある。「だっこちゃん」、「ルービックキューブ」、「オセロ」・・・。こうした大ヒットに憧れてバンダイに入社した男が、ウィズの創業者で社長の横井昭裕である。横井はバンダイに10年いた後に独立し、同社を設立した。それからさらに10年後、横井は伝説的な大ヒットを生み出した。それが「たまごっち」というわけである。
 
同社のヒットは「たまごっち」だけではない。96年にはたまごっちの男の子版の意味合いで作った「デジタルモンスター」が人気を博し、99年にはテレビのアニメとなって大ブレイクした。また2000年にはおしゃべりするぬいぐるみの「プリモプエル」がヒット。独身OLがターゲットだったが、60代~70代の高齢者にまで受け入れられた。そしてJASDAQに上場した2005年以降のヒットが「ふたりはプリキュア」シリーズだ。


ウィズを支えるヒットの法則
 
横井は大学を出て、おもちゃの企画開発をやりたくて、1976年に(株)バンダイに入社した。バンダイではさまざまな壁にぶつかったが、それが結果的に横井を独立の道へと導くことになる。
「バンダイはキャラクターが開発の中心です。だから企画者はガンダムならガンダムというキャラクターの枠内で商品を作っていかねばならない。つまり、それから外れたものを作ろうと思ったらバンダイでは無理なのです。でも僕は遊びというのは子供だけのものじゃないと思っていますから、もっと広く提案したかった(横井)」
 
だが、独立して企画会社を設立して、また壁にぶつかった。
「日本にはロイヤリティーを払うという習慣がないんです。企画が採用になっても一本いくらで買われてお終い。つくづく製造までやらなければダメだと思った」と横井は語る。
 
この横井の言葉にはさらに大きな意味がある。
「製造工程であるとか、素材とかを分かっていることがどれほど重要か。だから製造まで落とし込む力がないと企画というのは単なるアイディアでしかないんです(横井)」
 
だからリスクをとって企画開発と製造を自社でやっていった。
 
この思いがなければ「たまごっち」のヒットも自社に利益をもたらさなかっただろう。横井にいわせると、「ヒット商品には7割くらいまでは方程式が当てはまる」のだ。
 
一つが「マイナーメジャーの法則」。ヒット作にはマイナーな要素が30%とメジャーの要素が70%必要だというのだ。横井によると、「たまごっち」もゼロから生まれたのではない。
「当時ゲームウォッチという小さな液晶ゲームが流行っていた。そしてパソコン向けのゲームで『アクアゾーン』という魚を育てるゲームがマイナーなブームになっていた。これを組み合わせたのです(横井)」
 
もう一つは「螺旋の法則」。流行は螺旋形でやってくるというものだ。例えばヒットした商品はまた何年か後に再ヒットするがその形が変わっているというのだ。螺旋形だと一周するとそこに差ができる。その差こそが重要なファクターで、つまり昔ヒットしたものは形を変えてヒットするということなのだ。


毎日150本の企画を3ヵ月出させた
 
ところで、この種の会社は大ヒットが出れば出るほど、不安定な要素を内包することになる。その大ヒットに安心してあぐらをかいたり、凄い会社になったと勘違いしてしまったり・・・。
 
これについて横井は「『たまごっち』のヒットは年末ジャンボ宝くじがまとめて40本当たったくらいにしか考えなかった」という。つまりラッキーだったが次のチャンスを貰った、と考えたのだ。実際にその後のヒットが横井の考えを証明した。
 
ところで(株)ウィズの業績を見ると不安定さが目立つのは否めない。例えば売上げは2003年5月期が40億1900万円だったのに対して、翌年は30億4300万円と下がり、06年には76億9300万円と盛り返すが、07年3月期は45億900万円となっている。
 
一言でいえば波があるのだ。この種の会社に付き物の要素といってしまえばそれまでだが、上場企業としてはそうもいっていられない。
「安定的に経営するためには、まず大ヒットした商品を定番商品に育てることです。ディズニーやキティ、ガンダムのように二世代にわたって支持されるものを育てていく(横井)」
 
そういう方法でそれを実行するのか。例えば、映画に拡げる。2007年12月「たまごっち」が映画化され話題になったが、これは横井のいう世代の広げ方なのだろう。また2007年には、5月から3カ月にわたって、企画の人間には1日3本の企画提出を命じた。約50人だから毎日150本である。
 
さらに、昨年は超プロデューサー級の人材を入社させた。業務提携や資本提携も活発に行なった。体制を万全にして今後への基盤が確立し、あとは次のヒットを出すだけだ。
ところで、社長の横井は今でも自ら企画を出している。今さら企画を出すのは嫌じゃないですかと問うと、「まだまだプロとしては自分が上」と自負を垣間見せた。
 
しかし、時代はどんどん変わっているから若い人の感覚は大事にしているとも。社員が絶対にやりたいといってきたものはやらせてやりたいのだそうだ。
そんな横井の社長室は大変にユニークだ。フクロウが2匹いる。ジム顔負けのトレーニングマシンが揃っている。この部屋で体を鍛えているのだそうだ。
WiiやNintendoDSのヒットを見て「ああいうのをやりたかった。デジタルとアナログの融合です」と、無邪気に笑う横井。その考えを社員が受け継いでいけば同社の今後はさらに明るい。

(2008・8・19)


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