【第3回】素人の目線で「食品素材」を開発する無名のヒット商品創造企業

(株)ファーマフーズ

大ヒット商品の隠れた演出者
 
何がおもろいのか、という視点に立つと会社の性格がよく分かる。今回のファーマフーズは、発想がおもろい。
 
と言っても、何のことかピンとこないだろう。具体的に紹介しよう。

江崎グリコにあまり知られていないヒット商品がある。通常、チョコレートは一商品で年間18億円も売れれば大ヒットなのだそうだが、このチョコレートは年間60億円も売った。商品名はGABA。このチョコレートに冠されたGABAとは、γ―アミノ酪酸のこと。つまり、グリコの大ヒット商品GAVAとはγ―アミノ酪酸入りチョコレートなのだ。このどこがいいのか。
 
実はγ―アミノ酪酸にはストレスを和らげる効果がある。ストレスの多い人、特にOLを中心に人気が高まったというわけだ。
 
前置きが長くなったが、このGABAを作っているのがファーマフーズという会社なのだ。本社は京都。典型的な研究開発型の会社である。2006年東証マザーズに上場している成長企業と言えよう。
 
ファーマフーズの社名はファーマ(pharmaceutical=薬学の)フーズ(foods=食品)から来ている。医薬の観点から分析したデータを元に医薬品を作るのではなく、食品素材を作り、食品会社などに提供していると言えばよいか。
 
例えば前述のGABAチョコレートに提供したのはファーマギャバという素材名だが、これは漬物の乳酸菌に含まれるGABA(γ―アミノ酪酸)という物質がストレスを和らげる効果があることを突き止めて開発したものだ。
 
同社はその効果を極めて分かりやすい実験によって証明した。それは、高所恐怖症と自ら認める男女8人に、歩行者用の吊り橋では日本最長の奈良県十津川村の「谷瀬の吊り橋」を渡ってもらい、渡る前、中間地点、渡った後でGABAを服用した場合としない場合の比較を行ったのである。この結果を自ら学会で発表し、世間の注目を集めた。この報告を聞いていたある新聞記者が、この話を記事にしたのだ。
 
同社は同様の実験を横浜:東京間のJR線で朝の8時半にも行ったそうだ。
このGABAはチョコレートにも微量が含まれることから、江崎グリコに売り込んだわけだ。現在はコカコーラのジョージアコーヒーでも採用され、GABAコーヒーが売られているそうだ。


素人の目線で発想するプロ集団
 
同社の開発における発想の原点は「素人の目線」である。
 
鶏の卵に注目してさまざまな食品素材を開発しているのはそのいい例といえよう。鶏卵にはそもそも骨を強くする物質が含まれる。卵の中で鶏の骨が形成されるからだ。これを抽出して作ったのがボーンペップという素材で、これは骨粗鬆症に効果がある。
 
「卵に骨を作る成分があるというのは、いわば常識の盲点」と同社社長の金武祚は言う。確かにそう言われれば素人でも分かるが、あまり考え付いた人はいない。そこが素人の目線なのだ。それを金は「優しいバイオ」とも表現する。
 
この発想はまだ広がりを見せる。例えば、鶏は病気から身を守るために抗体を作る。この免疫システムを利用して、鶏卵からその抗体を抽出し、さまざまな素材を作っている。たとえばピロリ菌を鶏に打って作った抗体はグリコのヨーグルトとして月間200万本販売されている。それも日本だけでなく、中国、韓国などにも出荷されているそうだ。ピロリ菌感染者は日本で6000万人、中国では7億人と言われており、この商品の大きな可能性を物語っている。
 
インフルエンザウィルスの抗体もやはり鶏卵から抽出し、エアコンの抗体フィルターとしてダイキン工業のエアコンに採用されている。このエアコンは月間40万台販売されているという。
 
こうした面白い素材は枚挙に暇がないほどで、同社がいかにバイオの分野でユニークな研究開発を行っているかが分かろう。


当初は雪かきが仕事だった
 
そもそもなぜこのような会社を作ったのか、社長の金は「気軽な気持から」とその背景を明かした。アメリカに行っていた時、サンディエゴで開かれた学会で、プレゼンテーションを聞いていて「アレくらいなら出来るんじゃないか(金)」と思った。
 
「それが間違いの基で大変な苦労をした(金)」そうだ。
 
同社の設立は1997年。バイオベンチャーが注目され始めたころだ。ところが設立後は金が言うように大変だった。同社は製造を外部に委託しているとはいえ、インフラ整備にまずカネがかかる。空調設備にコンピューター。研究開発でもさまざまな成分を抽出したり、濃縮したり、そして廃棄の問題もある。
 
「カネがなく、たまたま石川県の小松で材木屋のあとを借りて4人でスタートした。ところが見慣れぬ連中が白衣を着てうろついているものだから怪しい集団に間違えられたり、雪深いところなので、当時の2年間は雪かきが仕事だった(金)」そうだ。
 
99年に京都に出てくる決心をして、オフィスを探したがいい場所がない。ようやく見付けた時、ビルのオーナーに言われた。
 
「2年後にこのビルを買い取るなら貸そう」。
 
その約束を果たし、周辺のビルもどんどん買っていき、現在に至っている。


社長の顔が見えている会社はいい会社
 
同社を取材していて気付かされるのは極めてマーケティング戦略に巧みな点だ。例えば開発領域は老化、神経、免疫の3分野である。どれも時代のニーズにがっちりと適合している分野で、しかも前述したように開発思想が分かりやすい。素人の目線というのは実はマーケティング戦略の要でもある。
 
社長の言葉も分かりやすい。
 
「人を良くするのが食」、「お茶、卵、ミルク、酵母、小麦など身近な素材を使う」、「きっちりしたデータがあれば(消費者に)買われない理由がない」等々。
 
また、社内の雰囲気がいい。明るいのである。社長の発想が「素人目線」によるところが大きいのか、はたまた、社員の平均年齢が若いためか。いずれにしてもこの雰囲気は一朝一夕に作れるものではない。
 
この会社には社員食堂がある。昼時ともなれば同社の社員は食堂で食事をする。その和気藹々とした雰囲気が実にいい。この取材をした時には、その食堂に京都大学の副学長がふらりと現れて、みんなと一緒に食事をしていた。
そんな雰囲気の会社なのだ。
 
社長の金武祚は大変穏やかな目をしている。そして、話すことに夢を感じさせる。そういう経営者に出会うことは、そう多くないだけに非常に印象に残る。
 
会社というのは、社長で決まる。社長の顔が見えている会社はいい会社である。そしておもろい会社である。恐らくこの会社の社員はそういうことを肌で感じているに違いない。


海外進出で可能性はさらに広がる
 
同社の業績は上場した2006年7月期で売上高12億円、経常利益1億8500万円。2007年7月期は1億円強の赤字となった。念願だった研究所を付設した新社屋に移転して販売管理費が膨らんだ半面、売上が思ったほど伸びなかったのが原因だ。
 
それに自前で開発をしている分、研究開発費がかかるのも同社の宿命である。前期の研究開発費は3億円。実に売上高の20%超をかけているのだ。
 
そもそも規模は小さいわけだから、当分は大幅な利益は見込めないかもしれない。
 
しかし何と言ってもそのポテンシャルは大きい。そこが魅力なのである。
 
そして同社は上場を契機に新たな展開を始めている。一つは米国、中国など海外への進出。米国ではFDA(食品医薬品局)による食品安全認可制度GRASを取得した。これにより、米国での売上の伸張が期待されるし、中国でも「新資源食品」としての認可が取れる寸前である。
 
そして、もう一つはロート製薬などと提携して始めたメディカル分野への進出もある。期待度の大きな会社であることに間違いはない。

(2007・12・14)


トップページ -> なぜこの企業が凄いのか -> 【第3回】素人の目線で「食品素材」を開発する無名のヒット商品創造企業