【第21回】投資家が心底欲しがる情報を提供し続ける金融情報会社の「情熱」

株式会社 文芸社

欧米と日本では投資家の質に大きな開きがある
 
よく言われることだが、欧米の投資家に比べて日本の投資家はまだ未熟で、質的に開きがある。その開きの主な原因は情報の差だと言われている。日本人投資家の場合、持っている情報が質的にも量的にも少ないのが原因で、それが投資家の質の差となって表れるというわけだ。

一般的に情報を提供するのは証券会社だが、近年には金融情報サービス会社の出現によって少しずつ変化してきた。こうした状況下で顧客本位の情報を提供することに注力して成長した金融情報会社がある。それが(株)T&Cホールディングスだ。
 
同社の設立は1999年12月。設立当時は(株)トレーダーズ・アンド・カンパニーという名称で、日本株に関する情報提供を主事業とした。この会社が目指したのは顧客本位の情報提供である。創業者で現社長の田中茂樹は、当時を振り返って創業の経緯をこう説明する。
「証券会社にいる時は、商品部で運用を行なっていました。ところがそこで認識したのです。我々が持っている情報と、顧客が持っている情報には圧倒的な差があると」
 
つまり、その違いを埋めることができればビジネスになると感じてもいたのだろう。実際、欧米と日本の投資家はそこで差がつくわけだから。しかし、これは一朝一夕に解決できるものではない。なぜなら、これは証券会社の構造に関係しているからだ。例えばアメリカの場合、証券の営業は歩合制の外務員が行なっている。彼らはお客をいかに多く抱えるかに力点を置くから当然顧客への情報サービスは充実する。
「彼らはファイナンシャルアドバイザーと呼ばれ、弁護士と同じくらい尊敬されている。スイスではそれがプライベートバンカーなのです(田中)」


常に中立的という当たり前の姿勢が信頼を得た
 
日本では、その構造を変えないと無理だとすれば自分でやるしかない。幸いネット取引が日本でも始まったことにより、個人投資家は増え始めた。こうした顧客は質のいい情報を望んでいる。だとしたら、やるしかない。
 
田中は情報の質と、その使いやすさに徹底してこだわった。
「単にいいというだけじゃない。他社と比べて、圧倒的な違いまでもっていく(田中)」のが同社の方針だった。その方針は現在もきちんと貫かれており、同社が運営する「トレーダーズウェブ」は無料であるにも拘らず、その情報の量、質ともに大変充実している。
 
また、当初は日本株の情報提供を行なっていたが、同社は将来的には国際分散投資の観点で情報提供を行なうことを見据えていた。なぜなら、それこそが投資先進国で行なわれていた投資のスタンダードだったからだ。こうして同社は、日本人投資家の、欧米との質の差を埋めるべく、次々に情報提供を行なった。
 
しかし、理想と現実とは違った。同社設立当初の1999年末から2000年初頭にかけて、株式市場はIT株バブルに沸いていたが、2000年春過ぎから急激な落ち込みを見せた。長く続く株式市場低迷の始まりだった。田中は当時をこう回想する。
「2003年までは市場が下がっていく状況でしたから、いつ潰れてもおかしくない状況でした。とにかく大変だった」
 
潮目が変わったのは2003年、市場が底を打ってからだ。それまでは現在の有力顧客である証券会社も自社のリサーチ部門の存在を理由に、他社から情報を買うなどということはなかったが、トレーダーズウェブの使いやすさには勝てず、徐々に導入されていった。情報の中身で勝負した結果がここで表れたことになる。
 
使いやすさもさることながら、同社の情報が信頼される最大の理由は、常に中立性を保ち、厳しいこともきちんと書く、ということに尽きる。だから田中は「日本株に対しては2008年も厳しいと言っている」
当たり前のようなことだけれど、それができない会社が多い中で、T&Cの姿勢は一段と光っているように見える。
 
そしてもう一つ同社の急成長を後押ししたのが、インターネット証券の勃興だった。
「ネット証券がビジネスを拡大していくことで、証券界も風通しがよくなった(田中)」のだ。


世界標準は国際分散投資、だからそれを目指す
 
同社の業績も上がっていった。2005年11月期が売上高2億5600万円、経常利益が1500万円であるのに対し、上場直前の翌期には売上高4億670万円、経常利益1億589万円と伸張し、2006年12月には大証ヘラクレスに上場を果たした。
 
2007年11月期は売上高14億4900万円、経常利益2億2900万円と急成長を見せている。この原動力となっているのがサービスの充実による売り上げ増だ。
 
同社は設立当初から国際分散投資を目指していたと前述した。そのため積極的なM&Aを展開してサービスの幅を広げてきたのである。例えば、いまや同社のもう一つの柱である中国株情報では02年にトランスリンクを買収し、中国経済と株式の情報提供を強化させた。そして04年には為替と国際金融情報の充実のために、マネーアンドドットコムを買収している。まさに当初の考えをサービスに反映していることになる。だが田中に言わせると、これでも足りないのだそうだ。
「日本国内に限って言うと当初の目標の70%ぐらいまで来ている。でも、日本以外では限りなくゼロに近い(田中)」
 
だから、同社はさらにグローバルな展開を目指すというのだ。そして田中は、日本の市場についても厳しい見方を披露する。
「金融業界に限って言えば、新しいものへの変化が全くできていない。例えばETF(上場投資信託)のマーケットで、上場している日本株は僅か8銘柄だが、アメリカでは800銘柄ある。日本も確かに変わってきているが、それでも海外との差は広がっているのが実情」と言うのだ。
 
金融情報分野でグローバルな展開を見せる同社だが、もう一つの金融アドバイザリー事業でもグローバル化に向けてビジネスを展開し始めた。例えばハリウッド映画への投資。あるいはインドの不動産開発投資。そして特許権への投資。さらにはスイスに金融アドバイザリー業務を行なう現地法人も設立した。
 
現在同社では180人の従業員がいるが、そのうち110人は海外の社員というのが何よりもそのグローバル化を物語っている。
「来期は海外の売上の方が多くなる(田中)」というのも頷けよう。昨年同社は「中国株二季報」を出版した。四季報の中国版とも言えるもので、その情報の中身は濃い。こういうところがさらに情報の信頼性を生むのだろう。
 
社長の田中に何故成功できたかと問うと、即座に「情熱」という言葉が返ってきた。確かに情熱がなければ他社のやっていないことをやり続けることはできなかったかもしれない。言い換えれば、その二文字さえ心に持ち続ければ今後の展開も大いに期待できるということだ。

(2008・4・30)


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