【第15回】僅か4年で1500億円に成長させた物流会社の愚直なM&A戦略

SBSホールディングス株式会社

有名会社を次々に買収
 
会社が大きくなるために、近年、M&Aほど多用されている手法はない。だが、そのイメージはともすればマイナスに働く。曰く「乗っ取り」、曰く「マネーゲーム」。実際にそう言われても仕方のないM&Aもある。

ところが実直なM&Aで業容を拡大している会社がある。それがSBSホールディングス(株)だ。物流業界で注目度の高い会社である。 近年、「物流」はあらゆる企業で注目せざるを得ない分野となった。なぜならIT化社会が進み、情報が瞬時に流通するようになればなるほど、実際の物の動きとその効率性の重要度が一層高まってきたからだ。この世界は競争が激しいことでも有名だが、その中で同社は4年少し前の2003年12月にジャスダックに上場した。当時の業績は売上高193億5900万円、経常利益3億6700万円だったのが、昨期は売上高1470億9800万円、経常利益79億200万円となっている。相当の急成長と言っていいだろう。
 
だが、エスビーエスという社名を聞いてもほとんどの人はピンとこない。でも、こう言えばどうだろう。この2年間で雪印乳業の物流子会社雪印物流(現フーズレック)を買収した。東急グループの物流子会社東急ロジスティック(現ティーエルロジコム)、引越センターのダック(07年10月にアートコーポレーションに売却)などを買収し傘下に収めた、と。
 
業績拡大の原動力になっているのは、冒頭の買収であることは間違いない。こう書くとやはり「カネの論理ではないか」と考える人はいるだろう。そうでなくとも、こうした労働集約的産業で規模を大きくして合理化できるような戦略は組めるのだろうかと、素朴に考えてしまう。
 
一連のM&Aについて、同社社長の鎌田正彦はこう語る。 「この業界は資本の大きいところが強い。そうでないとどうしても下請け、孫請けなどの存在になってしまう。規模が小さいと大きな仕事ができず、また赤字にも耐えられないのです」  全国に6万社ともいわれる物流業界は大手が支配的に小さな会社を使っていく構造がある。小さな会社が大きくなろうとしても、大きな仕事がなかなか取れない。そうなると下請けに甘んじざるを得ない、というのが鎌田のいう構造論だ。それから脱却するためには買収して大きくなるしかない...。
「うちは小さな力を結集して、大きなところと競っていく存在になりたい(鎌田)」
 
そのための買収なのだ。


何でもできる物流会社を目指す
 
だからというわけではないが、買収自体は派手に見えても、その過程では常に相手が納得できるように交渉するのだという。雪印の場合は、「大事な子会社なのだから雇用を守ってくれるか、すぐに売却したりしないか」という相手の問いに、「われわれは本業が物流。業務を改善して、最終的には雪印の物流コストを下げる」と愚直に答えた。
 
入札では投資ファンドとの争いになるケースが多いが、あくまで、自社の立場を崩さず理解を促すやり方に、売る側も納得させられる。
 
実際に、傘下に収めた会社の経営の融合は、気を遣いすぎるほど慎重に進めている。雇用を守り、人を送り込まず、そのままの体制で経営させる。融合のために自ら出かけて行き、役員や幹部と会議を行なう。決して高圧的に押しつけない。時には酒を酌み交わす。
 
もちろんそれだけではない。買収の効果を出すための計画も着々と立てている。まず6000台にもなったトラックをGPSでつなぐ。配送の空きをなくすための手法である。これでトラックの稼働率を2割上げる。物流倉庫も1つの大きな倉庫に集約する。こうして、大手物流会社と対抗していくというのだ。
 
エスビーエスの買収戦略は、実は物流を起点とした総合的なアウトソーシング業の構築のためである。
「何でもできる物流会社を標榜している(鎌田)」という言葉通り、メーカーがお客なら、作ることだけに特化してもらい、他はすべて引き受ける。物流のみならず、人材供給も、マーケティングも行なう。買収がその戦略を可能にさせる。
 
例えば、会社の引っ越しがあれば、当然社員の引っ越しも付いてくる。断らない会社だから、引っ越しも大きく事業として取り込む。
 
だから、メール便の会社もあれば、マーケティングサービスの会社もシステム構築の会社も物流コンサルティングの会社も持つ。参加の物流会社にも食品輸送から、一般輸送まで専門子会社群が列をなしている。


小さな会社の集合体で大手の牙城を崩す
 
鎌田が事業を始めたのは、大手運送会社にいたときの経験が元になっている。「その会社は、A地点からB地点までを届ける会社だった。だから、いろいろな仕事を断っていた(鎌田)」というのだ。だから、「断らない会社をやろう(鎌田)」とした。
 
物流を起点とした総合的なアウトソーシング業というのはそこに端を発しているのだ。
 
もちろん、こうした戦略が本当に機能するのか、という疑問は常にある。しかし、鎌田は専門分野の事業それぞれを、その分野のトップクラスに持っていくことで、それぞれが独立した強みを発揮し、その集合体として総合的に強みを破棄できるようにしようとしているのだ。
 
だから、鎌田にはそれがうまく機能するイメージしかない。いや、うまく機能させるために傘下の会社を飛び回って「融合」を図っているのだろう。
 
エスビーエスの目標は4~5年後に売上3000億円、利益で3~5%(90~150億円)の規模になることだ。そうすると業界で6~7位の規模になる。それが実現すると、鎌田の構想通り、小さな会社の集合体で大手の牙城を崩すことになる。
 
同社が順風満帆であることは分かる。しかし、「12、3年前まではいつ潰れてもおかしくないような会社だった(鎌田)」。実際、潰れそうになったことが3回ある。それを持ち前の粘り腰で回避してきた。その12年前、ある経営者向けの塾に入り、周りの経営者たちが上場を目指しているのを知って驚いた。講師はベンチャー経営者の先達ばかり。その時に「俺もできるんじゃないか」と初めて上場を意識したという。余談だが、その塾の講師にはワンマンで知られた経営者もいた。しかしその会社はその後おかしくなっていく。鎌田が買収した企業との融和を高圧的ではなく、一生懸命粘り強く行なうのは、そんな経験がベースにあるからかもしれない。粘り腰だけではない。頭の良い経営者でもある。

(2008・3・18)


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