【第14回】後発のアパレル会社を一部上場にした社長の「理論」と社員の「感性」

株式会社 パル

「理論」と「システム」で高成長
 
世の中に理論好きの経営者はたくさん存在するが、ファッションの分野で異彩を放つ理論家と言えば、株式会社パルの社長である井上英隆をおいて他にない。流行にはそれ自体サイクルがあり、流行の権化のようなアパレルの分野ではそれを活用していくことこそ成功の道と説く。しかも、その理論に基づいてヒットを生み出すシステムを作っていけばいい。その両輪があれば、事業は成功すると説く。

そんなに簡単にいくものだろうかとつい考えてしまうが、この人の理論には説得力がある。なぜなら実績を上げているからだ。それでなければ生き馬の目を抜くような業界で後発も後発からスタートし、一部上場にまで上り詰めはしないだろう。その理論とシステムはどんなものかという前に、同社の中身について触れておこう。
 
同社の商品ターゲットは、若い層である。ところがこの世代ほど多種多様な好みをもち、しかも移り気な層はない。高いファッションセンスを持ったファッションリーダー、それを追うトレンドフォロワー。奇抜なストリート型ファッションを好む人もいれば、流行に左右されるのを好まない人もブランド大好きな人も。同社はこうした若い層をターゲットに30ものブランドを展開しているのである。
 
2000年にJASDAQ上場、2006年8月には東証1部に昇格した。
 
売上高は05年2月期の305億1400万円から翌07年2月期は554億4500万円に上昇、経常利益も20億2800万円から52億2100万円(いずれも連結ベース)へと急成長がはっきりと窺える。
 
ヤングの購買意欲はデフレ不況下でもさほど減退しなかったとはいえ、この会社のどこに成長の源泉があったのか。それこそが、井上が標榜する「理論」と「システム」なのである。


ファッションは12年サイクルで動く
 
井上はおよそ20年ほど前に、ファッションには一つのサイクルがあると考えた。そのサイクルは12年で一巡する。この理論を元に井上が作ったのが「パルマップ」というものだ。
この12年サイクルとはどんなものか、どうやって作ったのか。
「コンサバが流行ると次にはエレガントへと流れ、ユニセックスへと移行しドレスダウンへと向かう。それが大体12年のサイクルで一巡してくる」と井上は説明する。つまり、時代の流れによってファッションも変遷するわけだから、必ずAという傾向のファッションの次にはBという傾向のものが生まれ、それはさらにCやDへと移っていく。金利が上昇すると貯蓄が増え、設備投資は控えめになるが、金利が下がるとその逆になる。といった景気の循環と同じ考え方である。
 
これを知るために、井上は戦後の220~230ものブランドを一つの表に時系列に置いていき、そのライフサイクルがどのように推移していったかを一つひとつ検証したのだという。
「ただ重要なのはそれがスパイラルで進んでいることです。一時代前のコンサバと次のコンサバでは微妙に違う、そこが重要(井上)」だからこそ、そこに感性が必要になってくる。


おもろい奴かどうかが採用の基準
 
そこで重要なのが、その理論を具現化するシステムということになる。
「ヤングのファッションは流れが速い。この流れを敏感に感じ取って商品化していくシステムがあればいい」と考えた井上は、面白い提案制度を編み出した。
「お客さんと同世代で、感性の優れた人間に次はこれだ!という提案をさせるんです。ウチには『拝啓社長殿』という提案制度があって、社員はもちろんアルバイトやパートでも提案できる。今から流行るモノを今提案しても遅い。次はこれだ!というモノを提案の中からピックアップし、その提案者にマーチャンダイザーをつけて商品開発をしていくんです(井上)」
 
実際、アルバイトが提案したあるブランドは、一時期、同社の売上の半分を占めたほどである。こうしたシステムの下、毎年50~60の提案があり、その中から、3~4つを選ぶ。社長が見てゼネラルマーチャンダイザー(GM)が見て、事業部長に担当させていく。
「元々後発だったので、トレンディでないと伸びていかない(井上)」から、採った方策なのだそうだ。
 
しかしここでもう一つ重要な点に気付く。ではそんな感性の優れた人をどうやって採用するのか、である。
 
同社の採用は極めてユニークだ。毎年、ネットで6500人もの応募がある。来るのは4500人程度。出身校も成績も関係なし。書類審査もなし。来た人はすべて面接する。採用基準はただ一つ。「おもろい奴」かどうか。だからリクルートスーツで来た人間などもちろんダメ。一次面接が大変だ。東京で2回、大阪で3回。一人当り5分程度。ここではむしろ面接官の感性が試される。社長も参加して人物をじっくり見ていくのは三次、四次の面接からだ。


地方都市にも販路を広げて売上高1000億円達成
 
このシステムを語るには、もう一つ重要なポイントがある。それは、こうしたシステムの下では自社で商品の企画開発から製造、販売までを一貫して行なっていく場合にのみ、最大の強みが発揮できるということだ。
 
ファッション業界では、この企画・製造・販売を一貫して行なうことをSPAと呼んでいる。同社がこのSPAに取り組んだのは17年前。本格的に始めたのは97年からである。
 
JASDAQ上場時はSPA化率35%程度だったのが、現在は70%以上。
「すべて仕入れて売るだけの小売りの時は荒利42、43%で経費が38、39%だった(井上)」というから経常利益率は4、5%。だが、今は10%近くある。
 
現在、実行中の3カ年中期計画では、「売上高700億円。その後、第二次3カ年計画を達成すると売上1000億円で経常利益130億円(井上)」になる予定である。
 
そのための課題は一つ。販路の多様化である。同社は直営で店舗展開を行なっているが、現在は大都市圏中心。
「これを30万~50万都市にも拡げたい。百貨店にも入れるし、その時には量販系のファッションも作っていかなければ」との思いが井上にはある。これを実現させれば、名実共に業界の一翼を担う存在となる。
 
ところで、パルの経営理念は「みんなの幸せのために」というものだ。漠然としているようにも思えるが、この理念には命がかかっている。実は、社長の井上は16年前に頸椎軟骨症という大病を患っている。大手術をしなければならず、それまでの2週間は悪い方へ悪い方へと物事を考えていったという。
 
医者に手術の失敗の確率を尋ねると「飛行機が落ちるくらいの確率」と答える。それでは安心できず「でも最近、飛行機はよく落ちるでしょう」と医者に返すと、医者も「そうやな」と言った。
 
漫才のようだが、そこで井上は俺の人生は何だったのかと自らに問い直した。考えついたのが「みんなの幸せのために」という経営理念だった。
「それから会社が変わりました」と言う井上の笑顔は、爽やかそのものである。

(2008・3・11)


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