【第13回】青臭いほどに社会正義を貫き通して高成長、転職サイト会社の底知れぬ真っ当さ

エン・ジャパン株式会社

「転職は慎重に」と訴えて7年で30倍以上の高成長

「事業というのはそれ自体が社会貢献です。しかしウチはそれだけじゃだめだと言っている。その事業に社会正義性がないといけない。だからその条件を満たす事業しかしない」 こう語るのは、転職サイト大手、エン・ジャパン社長の越智通勝である。エン・ジャパンという会社はテレビCMなどでご存知の方も多いだろう。爆笑問題が出演し、コントの後、「転職は慎重に」とメッセージが流れる。

数多ある求人情報の広告の中でも異彩を放っている広告である。転職を勧めるのが転職会社の広告だろうに、「慎重に」はないだろう、と凡人はつい思ってしまいがちだ。しかし、社長の越智の考えは違う。
「この業界はひどい企業が多い。だから大きくなってはいけない。大きくなると企業を困らせる」と言う。例えば、35歳までの人材を求めている企業に、それでは人が集まらないからと40歳まで範囲を広げるように言う。その結果、人は集まり、人事部長は面目が立つかもしれないが、集まった人材の質は求めているものとは明らかに違う。
「だからわれわれは求職者の立場に立たなければならない(越智)」
 
詳しくは後述するが、その一つのメッセージが「転職は慎重に」なのだ。
実際、転職市場は大変な勢いで伸びてきた。景気の上昇もあったが、それ以上に七五三と言って、入社3年で中卒者の7割、高卒者の5割、そして大卒者の3割(3.5割とも言われる)が退社するという、昔では考えられないような状況が現出している。
 
転職市場が活気付くのも当然だ。しかもこの市場では、以前は『ビーイング』などの分厚い紙の情報誌が主流だったが、近年はインターネットを利用した転職情報に急展開してきた。
「リクルートですら紙とネットの比率を大幅に変えた(越智)」
インターネット専業の同社は、ここ数年急成長を遂げている。
 
同社が設立された2000年の売上高は6億2000万円で経常利益が2億4900万円。以来増収増益を続けており、翌2001年にはナスダックジャパン(現ヘラクレス)市場に上場。2007年度の業績は売上高226億8600万円、経常利益75億7300万円だから7年で売上高は36.6倍、経常利益は30.4倍の急成長を示したことになる。


広告主のいい面も悪い面も正直に掲載する
 
エン・ジャパンはそもそも日本ブレーンセンター(株)という会社の一部門として出発した。日本ブレーンセンターは1983年に越智が創業した会社だが、実はリクルートの代理店だった。それがなぜ、リクルートと競合関係になるまでに至ったのか。越智はこう答えた。
「リクルートは代理店と同時に直接営業もやっている。当然バッティングも出る。優良な顧客でぶつかると彼らは何と値下げをしてきた。代理店に依存しながら、一方で代理店つぶしのようなことをやる、そんな体質に我慢ができなくなった」
 
そこからリクルート離れを考えた越智は、伸びつつあるネット市場に注目する。
「今からならこの分野でトップになれるかもしれない(越智)」と考えた。
 
日本ブレーンセンターに転職情報サイト「縁」エンプロイメントネットを開始したのが95年。そこから分離独立してエン・ジャパンを設立したのが2000年というわけだ。
 
しかし、それにしても疑問はある。なぜ数多ある求人・転職サイトの中で毎年常に高成長を遂げていけたのか。ネットがコスト安で済むといっても、なぜこんな利益率を維持していけるのか。経常利益率は毎年30~40%を示しているのである。
 
その答えの一つが同社のうたい文句にもなった「転職は慎重に」という言葉である。本当に慎重な転職を勧め、そのためさまざまな手を打ったのである。

 
エン・ジャパンのサイトをよく見ると、まず求人企業の紹介が通り一遍ではない。いわゆる募集要項以外に会社の雰囲気を伝える様々な工夫がなされている。取材者の印象などという第三者的視点の記事もある。写真はおろか、動画まで付いている。
「ウチは一言でいうと取材をするということです。その企業のいい面だけでなく、全てを正直に取り上げる(越智)」
 
まるで、硬派ジャーナリズムのようだが、越智はどこまでも本気である。しかし転職がミスマッチに終わらないように、正直にその企業の情報を提供するというのは、理屈ではわかるが、企業の反発もあるのではないか。
「結果として応募が増え、定着率が高まるのなら企業はまたウチを使うようになってくれる」と越智はその疑問に答えた。最近では求職者の満足度を調査するし、企業に転職した人間がどれだけ活躍しているかをもフォローするという徹底ぶりである。
 
それにしても動画も含めて、それだけ細かく情報を提供するとなると、制作コストも並大抵ではないはずだ。一方、利益率は相当高い。なぜか。
「他が4人体制(営業、ディレクター、コピーライター、カメラマン)で作るところをうちは2人で作る。営業とコピーライターで写真も動画も撮る。その結果、コストは他社の半分以下です。創業当初からそうしているから個々のレベルも否応なく上がる(越智)」
 
そういう風土ができているのだと、越智は強調する。


ヤフー、リクルート連合の戦争にも勝利
 
このように話を展開すると、エン・ジャパンは本当に順風満帆に見えるが、実は大変な経験もしている。
それは2004年4月からスタートしたリクルートとヤフーの包括提携だ。これはエン・ジャパンにとっては存亡の危機だった。
「2002年末に、この話は出ていました。そこで(ヤフー社長の)井上さんに聞いた。すると『上は合意しているが下が反対しているのだ』と。早晩この話は実現すると考えすぐさまアクションを取った」
 
ここからが越智の真骨頂だ。広報宣伝戦略をがらりと変えた。ネット以外の広告を使い、ヤフー経由の比率を下げるようにしたのだ。当時ヤフーのシェアは20%だったのが、2003年3月には10%まで減少した。またこの時から、広報宣伝予算は売上の25~30%を投入した。2007年度の売上高は226億8600万円だから単純に30%で計算すると、68億円ものカネを投入していることになる。
 
その結果、サバイバルレースに勝ったのはリクルートとエンジャパンのみ。当時増収減益の予想を発表したが、締めてみたら大幅な増収増益だった。それから、3年が経ち、さらに形勢がはっきりとしてきた。リクルート=ヤフー連合が伸び悩んでいる中、同社の伸びは大きく、そして、昨2007年末、12月12~25日の集計時点で、同社は初めて求人広告の社数でリクルートを抜いたのである。
「結局、みんな他に行ってもウチに戻ってくる」 ユーザーのことを考え、採用の効果を考えて、しかもフォローも行なう。何か問題があれば、分析して再提案する。この業界の多くが何となくうやむやにしてしまう対応とは明らかに違うのだ。

 
越智に同社の目標について聞くと、即座に「目標はない」と答えた。中期計画を策定することもしない。したがって3年後に目標○○億円などとも言わない。それでいいのだと言う。では、今後の展開についてはどうか。
「とにかく、利益を上げるのはもちろんだが、独自性と社会正義性とがない事業はやらない。逆にその点が満足できれば、何をやってもいい(越智)」
実際には、そのコンセプトから生まれたサイトも出てきている。一つは「【en】本気のアルバイト」というサイト。もう一つは「【en】高校生」サイト。前者は、いい加減な考えでなく、本気でできるだけ長期に働いてもらうためのアルバイト情報サイト。後者は高校生が変なSNSに入り込まないように、きっちりとフィルターをかけ、参加者をはっきりと特定した高校生のための健全なSNSの運営サイトである。
 
どこまでも真面目に青臭いほど社会正義を貫く会社だ。しかしいい会社である。

(2008・3・4)


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