【第12回】世界中のアスリートに信頼される会社の「超素人発想商品」

ファイテン株式会社

日本企業で初めて米MLBに認められた信頼性
 
独創的な技術は得てして、素人の発想から生まれる。専門家は最初から既成概念を持っているため、どうしても枠を超えた発想が出来にくい。しかし、素人は「こうあればいい」という夢があり、それを現実化しようとする。そのためには既成概念など関係ない。そのとらわれのなさが、大きなブレークスルーを生むのである。

さて、その独創にもいろいろあるが、ファイテン(株)のそれは世界を驚かせるような「超」がつく技術である。それは何か。絶対に水に溶けないといわれているチタンを水に溶かしたのである。
 
ところで、ファイテンがどんな会社か知らない人もいるだろう。一言でいえば、健康をサポートするためのいろいろな商品を作っている会社である。もっと分かりやすく言えば、多くのスポーツ選手が首にかけているネックレスタイプの輪を作っている会社と言えばどうだろう。商品名を「ラクワネック」というこの商品は、野球では阪神の金本知憲、MLBダイヤモンドバックスのランディ・ジョンソン、プロゴルファーの片山晋吾、マラソンの高橋尚子、ポーラ・ラドクリフなどの契約選手をはじめ、各競技で、多くのトップアスリートが愛用している商品である。それも選手が勝手に使い始めたケースが多いのだ。
 
このラクワネックとは一体どういう効果があるのか。医薬品の認可が下りていないので、同社では効能についてはうたっていないが、これを着けると、身体の中を四方バラバラに流れている電流が一定の方向に流れ始める。力が出やすくなる。血流がよくなる。その結果筋肉がほぐれる。何よりトップアスリートが自ら進んで、これを装着し、愛用しているのが何よりの効能だろう。
 
このファイテンが、昨年12月、グランドプリンスホテル赤坂で、世間がびっくりするような発表会を行なった。それは、同社が日本メーカーで初めて、MLBのオーセンティックコレクションのライセンスを受けたのだ。信頼性の高い用具にのみ認められるこの契約は、MLB側が選手や関係者を調査して決めるもので、契約を結ぼうと思っても出来ない構造になっている。それが、ミズノでもアシックスでもなく、ファイテンに下りたのだ。社長の平田好宏は「一体どれくらいの販売量になるのか見当もつかない」と喜びを隠せない。今年から、同社はMLB各球団のロゴ入りグッズを作り、商品は米国内やネット上で販売されることになる。


素人の発想がチタンを水に溶かした
 
社長の平田好宏が同社を設立したのは、1983年。平田はもともと京都で治療院を経営していた。研究熱心で、お客のホームケア用にいろいろな治療具を開発していたが、装着させると楽になる素材を発見した。石英ガラスだった。これがお客の間で人気を呼び、値段をつけると飛ぶように売れ、徐々に、治療院よりも器具作りがメインになっていった。平田はさらに効き目のいいものを作りたくて水晶などいろいろな素材を試したが、最終的に行き着いたのがチタンである。チタンは錆びないし、金属の粉に出来る。この粉末を布などに貼り付ければ、テープなどに加工出来る。応用範囲が広がった。
 
この頃から、陸上などの選手の間では、このチタンのテープが人気を呼び始めた。有名選手も使い始めたのである。
 
しかし、ここで平田は素人の発想を発揮する。チタンを接着剤で付けてもごわごわする。もっといい方法はないか。そこでこんな要求を技術者に出したのだ。
「もっといいのはチタンを溶かすことだ。何とかやってみろ」
 
結論から言えば、チタンが水に溶けた。これで、加工力が大幅に上がった。チタン水溶液に生地を漬ければチタンが吸着する。あっという間にチタン含有生地が出来てしまった。
こうして開発されたのが、アクアチタンという製品で、ラクワネックに使われているのはこの技術なのである。
 
それまで、チタンを粉にして接着剤で貼り付けていた工程が、水に溶かすことで生地を水溶液に浸すだけですむようになった――。この工程の短縮がどれほど付加価値を生んだかは、素人でも分かる話である。ちなみに現在はこの技術を応用して、金も銀も溶かしてしまった。
 
同社はこの技術を開発した2003年から爆発的に売上げを伸張した。トップアスリートには好評だった同社の技術が、ラクワネックの発売によって、一般の消費者にも受け入れられ、売上げが大幅に拡大したのだ。2003年度は前年の売上高70億8200万円から一気に202億300万円に急増している。


ドイツの学者がこの効用を証明した
 
同社の売上げは、突出した2003年度の後は150億円前後で安定している。2007年度の売上げは165億5400万円、経常利益は4億7160万円(いずれも連結ベース)となっている。しかし、ここに来てまた急拡大の動きがある。それが前述したMLBのオーセンティックコレクションのライセンス契約である。平田はしかし、慎重にことの動きを見ている。
「今年は様子見です。一体どれだけ作ればいいのか、ラインの確保もあるし慎重にやっていきたい(平田)」
 
ただし、ファイテンに追い風が吹いているのは確かだ。その一つが、ドイツの医学者によるファイテン商品の研究成果が発表されたことである。
 
ドイツ、ブラウンシュバイク工科大学のマーチン・コルテ博士は脳神経外科の教授だが、自ら使っていたファイテン商品が、趣味の山登りに効果があると感じたことが始まりだった。ファイテン商品を着けていると疲れが違うと感じたのである。博士は日本にインタビューに来て、さらにドイツで研究を始めた。論文のタイトルは「アクアチタンテープが中枢神経系の神経細胞に及ぼす影響について」。神経細胞というのは(怪我など)ある異常な状態を経験すると、興奮のテンションが下がらなくなるのだそうだ。この細胞が「痛み」という情報を処理するのであれば、今度は(怪我をしたときよりも)少ない刺激でも同様の「痛み」を感じる。俗に言う「古傷が痛む」のはここからきている。ところが、チタンテープを貼ると、それを抑制でき、しかもなんら害毒を及ぼさないのだという。博士はこれを学会で発表し、各国の学者から絶賛を受けたという。
 
こうした、動きは海外で広まっている。シンガポールでは製薬会社とコラボレーションを始めた。医薬品カテゴリーのローションを発売する予定である。
「結局われわれの商品は効き目を実感してもらうことでしか動かない。だから、タレントを使って宣伝することはしない(平田)」。


米や卵まである商品に加えて、健康エステも展開
 
そして今、中国での展開が爆発的に広がっている。販売拠点は170箇所。4年前、ある日本のオーディオメーカーの中国代表を務めた人物に任せたことから、中国での販売はスタートした。1年目から黒字を出し、3年目の同社の利益を2倍上回った。売上げは日本の約2分の1である。
 
こうした海外の動きを見ながら、国内でも着々と手を打っている。その一つが健康エステである。今までは商品を売っていたが、それを使ったボディケアを自社でやっていこうというのだ。現在東京・銀座に「ファイテンサポートシステム銀座」としてオープンしているが、その第2弾を大阪・心斎橋につくる予定でいる。
 
ファイテンの商品カタログを見るといろいろな商品があるのが分かる。ラクワネックにアクアチタンテープ。さまざまなウェア、下着、ウォーキングシューズ、健康食品、そして金を溶かした水。米に卵もある。
 
これだけを見るとあまりにも商品が広がりすぎていないかと心配する向きもあるかもしれない。しかし、平田はこの効用をいろいろな商品に託して消費者に伝えたいのだ。ファイテンの卵はニワトリにごく微量の金の水をえさに混ぜている。すると、他のブロイラーとは明らかに違って、そのニワトリだけ鶏冠が真っ赤に色づいてくるのだそうだ。
 
その卵を食べさせてもらった。新鮮な卵ほど黄身が盛り上がると言われているが、そんなものじゃない。割ると黄身の盛り上がりかたが違うのである。
 
平田は恐らく治療院を経営していた昔とスタンスが全く変わっていないのだろう。お客のためになりそうなことはとにかくやってみる―。だから平田の顔はいつも輝いているのだ。

(2008・2・26)


トップページ -> なぜこの企業が凄いのか -> 【第12回】世界中のアスリートに信頼される会社の「超素人発想商品」