【第10回】手間暇もコストもかけてシニアビジネスに取り組む、急成長一部上場企業の本気

株式会社ゼクス

実業感覚で不動産ビジネスを興し急成長
 
ビジョンを明確にして、長期的な視野で事業を行なうということは、経営者なら誰でも口にすることだが、実際にそれを実行できる人は少数である。その少数の経営者の一人がゼクスの社長平山啓行である。ゼクスは不動産コンサルティングを主事業にする東証一部上場の企業だが、現在注目を集めているのは、数年前から注力しているシニアビジネスである。こう書くと、今のトレンドにあやかっている企業のように聞こえるが、決してそうではない。全社を挙げて、本気になって取り組んでいる姿がそこにはある。

その本気度は後述するが、まずは同社の業績を見てみよう。同社は2003年4月に店頭市場に株式を公開して以降、急成長を遂げており、2006年11月には東証一部に指定換えとなっている。業績は2003年5月期が売上高73億1200万円、経常利益7億1400万円であるのに対し、2007年5月期は売上高589億円、経常利益37億5500万円とまさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。
 
この成長について平山に聞くと、「時流に乗っただけ」とそっけない。
 
それだけではこんな急成長はないと重ねて問うと、平山は考えながら「よそと違うところがひとつある」と付け加えた。それは「不動産業でも実業をやりたいと思ってやってきたこと(平山)」だそうだ。
 
それはどういう意味か。
 
実は、平山は大学卒業後伊藤忠商事に入社した。その当時から実業に対する意識が強く、不動産でも実業をやりたいと考えていた。
 
だから、96年に同社を設立した時から、土地を買って転売するということはあまり行なわず、ビルを建てれば運営も全部社員で行なう方式をとってきたのだ。これは同業他社との大きな違いといえよう。
「不動産というのは現場が大事です。現在社員数はグループで2000人いますが、本部は170人で、後はすべて現場で運営に当たっています(平山)」


人任せにせず、自前でシニアビジネスを行なう
 
実はこの考え方の最たるものが、冒頭で紹介したシニアビジネスなのだ。
 
同社は不動産コンサルティング事業が売上の79%(464億700万円:07年5月期)を占めるが、シニアビジネスも店頭公開前の2001年から事業化しており、着実に業績を伸張させているのだ(同10%、売上高58億5800万円:07年5月期)。
 
同社のシニアビジネスは大別して2つの事業がある。ひとつは介護付き有料老人ホームの「ボンセジュール」。もうひとつは、元気な老人向けのシニアレジデンスの「チャーミング」シリーズである。
 
同社は、当然これらの事業も自社で運営しているのだが、ここで当然疑問が湧く。現場の運営といっても、不動産コンサルティング会社がそんな簡単に老人ホームの運営などできたのか。
「苦労しました。実は最初はジャパンケアサービスという会社に運営を委託していました。ところが顧客から文句がきても、それを運営会社に伝えるから時間がかかるし、言っても改善されない場合もある。だとしたら自社でやるしかないとなったわけです」
 
平山の判断の凄いのは、自分たちで責任を持ってやると決断した点だ。
 
アウトソーシングでも、もちろん運営はできただろうが、そうすると入居者の満足は最大にならない。しかし自分たちで一からクレームに対応していこうとすると手間もカネもかかるのだ。何よりスタッフを抱えることはコストを上げることにもなる。それでもアウトソーシング全盛の今とは明らかに逆行した戦略を取った。これが凄いことなのだ。
 
こういう姿勢の背景には、苦い思い出もある。それはこの分野に参入して「ボンセジュール」を始めた時のことだ。不動産の感覚でチラシをまいていた。問い合わせが200組も来た。平山は「これは即日完売やな」と思っていたという。ところが実際には1件の申し込みも来なかったのである。平山は焦った。一軒一軒回ってなぜ申し込まないかを聞いた。すると意外な答えが返ってきた。お宅は実績がない。初めてやるんでしょう。そんな会社に預けられないよ、と言うのである。不動産がなぜこんなビジネスをやるのかそれすら信用できないと言われた。
「正直に言って潰れるかと思った(平山)」が、たまたまある人の紹介で厚生省(現厚労省)の課長の母親が入ってくれ、それから信用を得た。


フローのビジネスからストックのビジネスへ
 
同社の経営戦略上、シニアビジネスには、もう一つ重要な位置づけがある。それはこのビジネスがストックのビジネスであるということだ。
 
つまり、老人ホームを建設したら建物は残っていく。ストックとしての価値がある。これが重要だというのだ。
「不動産コンサルティングはフローのビジネスですから、ストックのビジネスを持ちたかった。たまたま自分自身が重度の障害者のボランティアをしていたのでシニア向けのビジネスにはすんなり入れた(平山)」という。
 
現在、同社はボンセジュールを年間10棟ペースで、チャーミングシリーズを年1棟ペースで展開している。
「ボンセジュールに関しては自分たちで作るのは5~6棟で、後はM&A(平山)」だという。この事業の草分けの人たちが引退の時期を迎えていたり、参入したのはいいが、もてあましている企業もあり、比較的M&Aが容易に行なえるのだそうだ。
 
グッドウィルグループがコムスンの老人介護事業から撤退を決めた時も高級老人ホーム「バーリントン」を継承した。平山は、これは転機になる、と意を強くした。


社員が辞めないでどんどん入ってくる理由
 
さらに言えば、このシニアビジネスには広がりがある。同社は近年ゴルフ場を5ヶ所買収しているが、これとシニアビジネスをドッキングさせたのだ。
 
例えば一つのゴルフコースの会員になると、他でプレーできるのはもちろん、将来、同社の老人ホームに入居する際に、会員権入会金の90%に当たる金額を割引くというのだ。それも二親等内の譲渡が1回できるので長期利用が可能だという。まだ50代のうちはゴルフに熱心でも60代になると老人ホームのことも考え始める。
「その時にこれは便利な仕組み(平山)」であることには違いない。こうした平山の戦略が今後どう展開し、どう利益を生んでいくのか。
「この11年間は不動産の証券化の時流に乗った。今まではその収益をシニアビジネスに注ぎ込んで来た。利益が出てくるのはこれから(平山)」なのだ。
 
ところで、ゼクスでは若い人があまり辞めない。しかも、大企業を辞めた25~27歳の若い人材が多く入ってくる。
 
なぜかと言えば、ゼクスには先輩から守り継がれた文化があるのだという。それは――。何か問題が起こった時に「どうしましょう」と聞いてはいけないことなのだそうだ。
「こうしたいのですがいかがでしょうか」と聞く。つまり問題が起こったら常に対応を自分で考える。それが面白いのだという。上から押し付けられるのではなく、自分で対処を考える。そこに創造性が生まれるのだ。
「いい人材が集まる会社は魅力的な会社」の典型である。

(2008・2・12)


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