【おもろい会社とは何か?】第2章

・人のやらないこと=ニッチ ...ではない
・初めてのことをやる覚悟とパワー
・儲かりそうな事業に目がいくことの哀れ

人のやらないこと=ニッチ ...ではない

おもろい会社の、次のキーワードは「人のやらないことをやる」ということだ。

事業というのは、そもそも人のやらないことをやるから事業として成立するわけで、これは当たり前の話である。だが、これが意外に難しい。人が起業する時に、多くの人は、人の成功を見て立ち上げることが多い。二番煎じとも言えるし、柳の下にどじょうが二匹、とも言える。これで成功する人もいるにはいる。

また、近年「ニッチ(すき間)」という言葉が定着し、ともすれば「人のやらないこと=ニッチ」と捉えられるような傾向が出てきたようにも思う。

何故こんな屁理屈のようなことを書き並べるかというと、私は、「人のやらないこと」とは、そういうことではないと考えるからである。

人のやらないこととは何だろうか。確かに市場的に見ると、誰もが参入していない分野はそれに該当するし、昨今のようにほとんどが既に埋め尽くされている成熟した市場においては、人のやっていないこと=ニッチ、と言っても差し支えないだろう。

だが、である。市場は創造していくものである、という観点に立てばどうか。事業とはすべからく人が社会的に必要としていることを軸に生み出されてきた。必要に応じて新たなビジネスが考え出され、そして新たな市場に成長していったのである。別に観念的な話をするつもりはない。要は、事業を始める経営者の覚悟の問題である。

人がやっていないことをやり始めるには、経営者自身のパワーも集中力も並はずれたものを要求される。創造性も必要だ。もちろんこれは単に市場(マーケット)だけの問題ではない。商品やサービスが一般的でも、事業を進める方法にユニークさを見つけて実行する企業だってあるだろう


初めてのことをやる覚悟とパワー

詳しくは項を変えて紹介するが、株式会社喜代村という会社がある。この社名より、築地に24時間年中無休の寿司屋を初めて作った「すしざんまい」といった方が分かりが早いかもしれない。この店が出来たあと、築地やそれ以外の場所にも24時間年中無休の寿司屋が出来たわけだが、最初に作った喜代村の木村清社長のパワーはいかばかりだったか、想像に難くない。この店の出現で、閑古鳥が鳴いていた築地場外がにわかに活気を取り戻し、今では年間400万人がこの場所を訪れるほどである。

面白い話がある。当初、この店の幹部がせめて10分間掃除の時間を作りたいと、木村に進言した。すると木村は即座にこう言ったという。
「もし、10分間でも休みを取るなら、もう店は止めよう」

その勢いに気圧されてか、幹部はそのまま従ったという。木村にしてみれば、その10分間の休みを取れば24時間年中無休の看板は嘘になる。何よりお客のために始めた24時間年中無休営業が、中途半端になり、代えってお客に迷惑をかける、と考えたに違いない。もし、その時休み時間をとっていたなら・・・。おそらく24時間年中無休のすしざんまいの名声はこれほどではなかったろう。

これこそが人のやらないことである。そして、人のやらないことをやるには相当のパワーと覚悟が必要だということが、木村の言葉から窺えるではないか。


もう一つ例を出そう。以前におもろい会社発見伝で紹介したが、テンポスバスターズという会社がある。厨房機器のリサイクルを主事業にする上場企業である。同社創業者の森下篤史社長は、この別段目新しくもないマーケットに参入したが、事業を進める方法が斬新だった。

業務用品のリサイクルは、普通、倒産や廃業した店舗から商品を仕入れるが、その仕入れ価格は例えば50万円のものが1000円だったりする。それを5万円で売却すれば、とんでもない利益が生まれるわけだし、50万円のものが5万円で手に入るなら消費者もメリットが大きい。一見これは、真っ当なビジネススキームであるように思う。

ところが、件の森下社長は違った。5000円のものを5万円で売ることをよしとしなかった。5000円のものには適正な利益(つまり20%とか30%とか)を乗せて売ればいいと考えたのだ。しかも単に売るだけではいけないとも。ピカピカに磨き上げて、新品同様に商品を仕立て直した。これには当然コストがかかる。それも含めて、適正な利益を求めたのである。

この手法は、当たった、多くの顧客がテンポスバスターズの店舗に吸い寄せられるように、押し寄せたのだ。だが、当の森下はこれを「この業界で勝ち抜くための手法」として編み出したわけではない。商売は常に真っ当にしなければいけないと常々考えていただけだ。

人のやっていないことをやるというのはこういうことを言うのである。


儲かりそうな事業に目がいくことの哀れ

社会の、取り分け産業社会の構造変化に伴い、多くの企業が新たに事業を興したと何回か前に書いた。ここでも多くの企業が、人のやっていないことに目を付けた。時代の流れ、産業界の潮流が変わったのだから、当然ビジネスも変化する、と考える人が出てきたわけだ。

その代表的な例が企業のアウトソーシングである。人のやらないことをやるという意味で、この業種は注目された。企業にとっては、自社内で行なっていた、工程を外部の専門家集団に委ねることにより、効率化が期待でき、人件費を抑制することで、コストダウンを計れるわけだから、特にリストラクチャリングの工程においては効果を発揮した。

多くのアウトソーシング企業が、ある部門ごと引き受けるわけだから、人材に絡むビジネスだ。ある工程でのSEを派遣するとか、ある部分の設計を丸ごと引き受けるとか、といったビジネスはこの間に大きく成長した。

またこの頃、成長したビジネスに人材派遣もある。この人材派遣も、専門家を派遣するという意味では同じようなアウトソーシングビジネスであったが、業法の改正等で規制緩和され、今では一般社員的な人材が派遣社員として送り込まれている。その結果、規制緩和を悪用する業者も出てきたりして問題になっているが、これなどまさに経営者の問題である。

この分野が儲かりそうだとなって、新規参入が相次いだ。しかし一方、派遣できる人の数は払底し、いきおい専門的知識のない(今やワードとエクセルを使えただけで専門的なのだそうだが)人を抱えて、何でもかでも送り込むという業者すらあるそうだ。受け入れる企業側にも倫理観はなく、明日からのイベントに100人よこせ的な発注が出される。すると派遣業者は必死になって人を集める。その結果がどうなるかは想像に難くない。所詮昔の周旋屋の世界である。

人のやらないことをやるというよりは、「これが儲かりそうだから」やっただけの話である。もちろん短期的には利益が出るビジネスも多いだろう。しかし、そうしたビジネスはどこかで歪になり、破綻を来たすのだ。
「人のやらないことをやる」経営者の如何に少ないことか。でも、それを実行する経営者は間違いなくおもろい会社を作れる。

(2008・1・15)


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