【序説】第4回

・塩漬けになっていた不動産が流動化された
・「いいものを安く」しなければ売れない
・そして、おもろい会社は生まれていった

塩漬けになっていた不動産が流動化された

グローバル化とIT化で世界の構造が変化し始めた頃、日本の多くの企業は構造変化のために喘いでいた。世界の劇的な構造変化に対応しなければならない反面、目先の喫緊の課題である、自社の不良債権処理や不採算事業からの撤退を含めた事業の再構築に追われていた。

コストダウンという言葉が、戦時下の標語でもあるかのように叫ばれ、日本の強さとされていた「系列」や「既存取引先」が見直されていき、少しでも安い調達を企業が心がけるようになった。そのため、生産を中国やベトナムなどに移転し、コストを切り下げ、売価を安くすることによる効果が出始めたが、一方そのサイクルがデフレへと日本を導いたのである。

また、規制緩和が進んでいたことから、外資の進出が顕著となり、特に不良債権化していた不動産が、さまざまな金融技術を駆使した手法で流動化されていった。破綻した多くのゴルフ場、リゾートホテル、地方自治体が作ったわけの分からないテーマパーク、地上げし損なった都会の狭い空き地、そして大企業が持つ福利厚生施設や工場跡地、遊休地などが、次々と再生、再利用に向けて動き始めたのである。

付け加えておくと、構造変化を叫びながらいちばん対応が遅れたのは政府そのものである。お為ごかしのような省庁再編、政府系機関の民営化も、もめにもめた。未だにそれが実効性のある方法だったか、疑問の声を差し挟む人は多い。


「いいものを安く」しなければ売れない

世を挙げて構造変化への対応が進展する中、キーワードになっていったのは「いいものを安く」である(「いいものをそれなりの価格で」とも言えるが)。

その筆頭は、有名なユニクロだ。ファーストリテイリング社の戦略はまさに「いいものを安く」を地でいっていた。デザインをニューヨークで行ない、その型紙を中国に持っていき、生地の調達と縫製を行なう。日本での販売では、店舗は飾らず、商品を無造作に陳列し、それがまた新鮮に映った。

その手法は、今までにないものだった。

ファッションだけではない。バブル時に建てられたゴージャスなゴルフ場は主に外資系ファンドにより割安のゴルフ場として再生した。膨大な建築費を払って建てたゴルフ場でも、破綻後であれば安値で買い取り、その安値をベースに収支を考えられるため、割安の料金設定が可能だったのだ。

商品ではないが、派遣サービスの膨張ともいえる伸展は、やはり「いいものを安く」の感覚にマッチしていた。特に大企業において、いわゆる一般職を縮小し、非正規雇用である派遣の人材と置き換えていったことは大きな意味がある。企業は正社員を雇用することによって、給料以外にもさまざまな経費を負担する。そうしたフリンジ・ベネフィットを考えなくともよい派遣社員は「いいものを安く」のコンセプトに合ったサービスだった。

企業間のM&Aの伸展も、「いいものを安く」というコンセプトにぴったりの手法だった。

例えば、ある製造業が、新たな分野に進出するとなると膨大なリスクを負うことになる。そこで、その部門を買収によって立ち上げることを考える。買収した企業は既にその分野の事業を行なっているわけだから、新規事業立ち上げのリスクは少ない。

一方、新規上場したような企業は、規模を拡大していく場合、新たな部門立ち上げでは、そのリスクは非常に高い。従って、買収による新規事業立ち上げが金額の折り合いさせつけば妥当な方法になってくるのである。しかも、特に大手企業はリストラクチャリング(事業の再構築)によって、基幹事業への回帰ともいうべき集中と選択を行なっていたため、売却ニーズと購買ニーズがピッタリと合い、M&Aは促進されていった。


そして、おもろい会社は生まれていった

構造変化が日本の産業社会にもたらした影響は大きい。グローバル化とIT化という外部要因、そして不良債権の処理と構造改革をせねばならないという内部要因、そしてこれらの状況を睨んで行政が行なった、種々の規制緩和――。

大手を中心とした日本企業にとって、これらが乗り越えならなければならない大きな壁であるがゆえに、企業経営に重くのしかかった。既存の企業がいかに変革するか、言い換えればいかにして生き残るか、呻吟する中で、それまでのしがらみを一切持たない新興の勢力であるベンチャー企業が勃興してきたのである。

目端の利く人は、最先端のITの分野で、あるいは金融技術を使った不動産の流動化で、また大手中堅企業のニーズに応えてアウトソーシングの分野で、とさまざまなベンチャー企業が雨後の筍のごとく、興っていった。また、ファンドを組成して、そのファンドにレバレッジを効かせてより大きなカネを集め、見せかけの巨大企業も誕生し、まさに一大ベンチャーブームとなっていった。

こうした中で、おもろい会社もまた生まれ、そして成長するきっかけをつかんでいったのである。

(2007・12・25)