2013年9月18日

【来た!見た!書いた!】過去との対比をすればよく分かる東京五輪の本当の価値

3兆円から150兆円まで、喧しい経済効果への期待

 2020年の夏季オリンピックの開催地が日本の東京に決まった。これからの7年、半世紀ぶりに開かれる五輪で、首都・東京はどんな都市に生まれ変わるのか。そして、そのためにどれほどのカネが投じられるのだろうか。
 人口が増え、高度成長期のまっただなかにあった前回1964年の「昭和の東京五輪」と、成熟期を迎え、国と地方が多額の借金を抱える2020年大会とでは、五輪を巡る経済の状況は大きく異なる。
「やれ3兆円だ、いや150兆円だ」と五輪の経済効果への期待感は強いが、大切なのは「費用を抑えつつ、東京の都市としての機能や魅力を高め、五輪を成功させる」という視点を貫くことだ。
 前回の五輪では、作家の小林信彦氏が「高度成長にともなう東京破壊は東京オリンピックの頃にピークに達した」(『私説東京繁盛記』)と批判する「町殺し」も、一方で進んだ。「新しい東京五輪のために」という名目で進みかねない「都市の破壊」にも、目を向けておかなければならないだろう。
 新しい東京五輪は28の競技を37の会場で行う。うち新設は22会場で、11会場が恒久施設、11会場が仮設のものとなる。新設会場の大半は東京都の臨海部に建設する。東京という成熟した都市インフラを活用し、コンパクトな会場配置で選手本意の大会とする計画だ。

前回は1兆円超、今回は半分以下!?

 東京招致委員会の開催計画によると、施設などの総工費は4554億円。そのうち最大のものは、開閉開式などが行われるメーンスタジアム、新国立競技場。現在の国立霞ヶ丘競技場を解体し、8万人収容の開閉式屋根付きスタジアムとして建て替える。工事費は約1300億円を想定し、国が資金を出す。
 そのほかの競技場施設はほぼ東京都が負担し、大会が終わるとマンションに転用する選手村は民間が開発する計画だ。既に東京都は2006年度から4年間で都税収入から毎年1000億円を基金に積み立て、現在約4100億円の基金を持っている。東京都が負担する施設整備費は1500億円程度になる見通しだ。
 この「総工費4554億円、東京都が負担する施設整備費は1500億円」という数字を、どう見たらいいだろう。筆者はこの数字を見たとき「意外とカネがかからないものだな」という印象を持った。あくまでも計画段階とはいえ、この予算の数字がどれだけのものかは、1964年の東京大会と比較するとよくわかる。
 1964年大会は総事業費が1兆661億円に達し、俗に「1兆円オリンピック」と言われた。1964年度の国の一般会計予算が3兆3405億円だったので、一般会計の3割に相当する額が64年大会に投じられたことになる。2013年度の一般会計総額は92兆6115億円なので、1964年の「1兆円」は現在の30兆円弱に相当することになる。1兆円という64年大会の事業規模の大きさがわかる。


日本を国際舞台に復帰させた前回大会

 1兆円の中身を見ると、さらに64年大会の持っていた性格がさらに強く浮かび上がる。
 競技施設整備などの直接事業費はわずか317億円で、残り97%は関連事業費が占めるからだ(池口小太郎『日本の万国博覧会』)。羽田空港から選手村が設けられた代々木までを結ぶ目的で建設が急がれた「首都高速道路整備」には722億円が投じられた。
 さらに大きいのが鉄道建設。「東海道新幹線建設」には3799億円。地下鉄整備には2328億円が投じられた、道路・街路整備にも1015億円をさいている。
 こうした数字を追っていくと、64年の東京五輪とは「五輪をきっかけに、東京という都市、日本という国を先進国並みにつくりかえることを目的としたもの」だったことがよくわかる。資本の集中投下と、名もなき多くの人たちの努力とが東京五輪を成功させ、日本を第2次世界大戦からわずか19年で国際舞台に復帰させることになった。


64年東京五輪で失ったものの重み

 だがその一方で、こうした急速な都市改造で、東京がなくしたものも少なくない。例えば東京・日本橋の景観だ。徳川家康が1603年(慶長8年)に日本橋川に架けさせ、現在も日本の道路元票がある東京・中央区の日本橋。だが日本橋川の上にふたをするように、首都高速環状線が走るため、その景観は決してよいとはいえない。
 首都高速は、当初から工費と工期を抑えるため、河川と既存の幹線道路の上をフルに活用する計画だった。環状線は日本橋川など江戸期にできた運河の上を主に通っている。64年大会を前に、羽田空港から代々木までの30キロ余りの路線が、基本計画の決定からわずか5年で完成したのは、この河川などの上を有効活用する手法がとられたからだ。
 「工費と工期を抑えるために仕方なかったのか」とも思う半面、上空を遮る無機質な構造物のために魅力を削がれた日本橋や運河を見るたびに「もっと他の方法はなかったのか」と思わずにはいられない。ほかにも江戸時代から続いた「佃の渡し」、五輪開催にともなう羽田空港の拡張などのために東京湾が埋め立てられ、シラウオ漁やアサクサノリの養殖なども消えていった。


当初の2倍以上に増えたロンドン五輪の事業費

 「64年大会のときに比べれば、2020年の東京大会は費用ははるかに抑えられる計画なので、64年大会のような都市の破壊は起こらない」という見方もあるだろう。
 だが東京での五輪開催決定からまだ10日程度しかたっていないのに、「当初1500億円程度と見ていた東京都の施設整備費が、建設資材の高騰などで4100億円余りに増える見通し」(16日のNHKのニュース)、「2020年代の開業を目指していた都心直結線・新東京駅構想を、五輪に間に合わせようと着工を前倒しする可能性が出てきた」(13日の読売新聞朝刊1面)などの動きが出ている。
 2012年のロンドン五輪では、招致活動の段階で競技会場やインフラ整備の費用は5400億円だったが、実際には2倍余りに増えるなど、五輪の事業費は当初計画より膨らみやすいものだ。開催決定の高揚感に乗じて、開発の範囲を広げたり、増やしたりする動きはこれからもあるだろう。
 だからこそ住民は「費用を抑えつつ、東京の都市としての機能や魅力を高める」という冷静な目で、国や都の動きに目を凝らしておきたい。

(2013年9月18日)

今週の第1位は『週刊ダイヤモンド』・・・頼れる銀行 頼れない銀行

週刊ダイヤモンド ... 頼れる銀行 頼れない銀行
日経ビジネス ... 五輪経済 予測30
週刊エコノミスト ... 2013年度下期経済総予測
週刊東洋経済 ... アップル再起動&電子部品サバイバル

 今週は、経済誌各誌が「あやかり」特集を持ってきました。何にあやかったのか?東京オリンピック決定、アップルのiPhone5S発表、そして、驚異的な人気でTVを席巻する半沢直樹シリーズです。
 そのなかで、準備万端整えて充実した特集を組んだのは『週刊ダイヤモンド』です。何せ同誌には、半沢直樹シリーズ第4弾の「銀翼のイカロス」が連載中で、この優位性をフルに活かして「半沢直樹はどこにいる?」というサブタイトルをくっつけて銀行特集を組んだというわけです。付き合いたくない銀行ランキングなど同誌の特色がよく出た内容で、これが今週の第1位です。
 第2位は「オリンピック」にあやかった『日経ビジネス』です。五輪が第4の矢になるという安倍首相の発言を受けて、五輪によって何が変わるか、30の経済予測を持ってきました。でも、本当は第2特集のヤマトとアマゾンを軸にした「物流」特集が面白いのですけれど、ま、合わせ技一本ということで第2位にしました。
 第3位はやはり「オリンピック」にあやかった今年後半の経済予測を掲載した『週刊エコノミスト』です。夏季五輪開催地決定後の株価騰落率を算出したりしていて、それなりに読ませます。
『週刊東洋経済』の特集は「iPhone5S発表」にあやかりました。アップルの今後の動向を分析しながら、日本の部品メーカーがどのような影響を受けるかを特集しています。

dia_2013.9.18.jpgnikkei_2013.9.18.jpgeco_2013.9.18.jpgtoyo_2013.9.18.jpg

第1位
■週刊ダイヤモンド■ <<<  半沢直樹で売りまくれ

 あざといなぁと思いつつ、でも、売れるだろうなぁ、と手に取ったのは今週の『週刊ダイヤモンド』である。
 今、話題の小説半沢直樹シリーズ最新作『銀翼のイカロス』を掲載する同誌がその「半沢直樹」を特集の随所に絡めてきた。
 で、特集のタイトルは「半沢直樹はどこにいる? 頼れる銀行 頼れない銀行」――。   
 銀行業界を暴きだし、「倍返しだ」と言わんばかりの特集。「付き合いたい銀行・付き合いたくない銀行」や「銀行マンの著しいレベル低下」など、赤裸々なタイトルが並ぶ。銀行に就職が決まった学生は「勝ち組」と評されるだろうが、実はドラマばり、もしかするとそれ以上に過酷な実状が見えてくる。50歳で事実上の定年となるのが、業界での暗黙のルール。同期前後で執行役員がでると、他は出向だ。減点主義から生まれる格差は、年収差1000万円。では業務は、融資や再建といった力強いものなのか?
 そうでもなくなってきた。銀行内では保証付き融資に依存、内部管理の仕事が増え対顧客業務に割ける時間が減った。また企業も、体力をつけるよう心がけるようになり、相互に溝ができた。「メインバンクとして意識が低下している」と言われ、権威は失墜している。「半沢直樹」がウケたのは、時代が彼を求めているからかもしれない。
 特集の冒頭では、著者である池井戸潤のインタビューが掲載されており、新たな層を開拓できる特集かもしれない。第2特集は「冠婚葬祭互助会の危機」。霧が立ちこめる問題の業界をのぞく。


第2位
■ 日経ビジネス■ <<<  五輪で変わることが30もある

 東京五輪の決定後、初の特集は『日経ビジネス』である。
 しかし、同誌をよく読むと、実は第2特集の方がしっかりと作られていて、地味だが面白い「物流」をテーマにしていることが分かる。もちろん週刊誌だから、五輪決定にすぐ対応することも必要。結論から言うとこのダブル特集が内容を充実させた。
 でまず、第1特集のタイトルは「五輪経済 予測30」。予測の第1番は「"第4の矢"登場でアベノミクス加速」。ここでは、竹中平蔵氏の言葉が引用される。
「五輪誘致による直接的な経済効果はそれほど大きくないだろう。しかし、アベノミクスとの相乗効果により、経済成長への追い風となるのは間違いない」と。もてはやされ始めた「アベノリンピクス」はその代名詞となるのか。
 あとは技術面、制度面、ビジネス面などの予測。ま、これはありきたりかな、という感じ。「VIP運ぶのは、自動運転カー」「出生率上昇に期待」「ホテルは新規投資」「我が子をスポーツ選手に」と続く。
 第2特集は前述した「物流大激変」。当日発送、遅くとも翌日発送が当たり前になってきた時代。高水準での物流が、サービスの1つの質にもなっている。そこで王者ヤマト運輸の超即配達の仕組みと、その王者と組んだアマゾンという2強を中心に、業界のうねりを伝える。

第3位
■ 週刊エコノミスト■ <<<  第4の矢があっても難しい日本経済予測

 振り返ると、2013年上半期は異例ずくめとも言える経済状況だった。日銀の異次元緩和からの円安進行。そして株高。米国の緩和縮小宣言。そこに転がり込んだ2020年東京五輪の決定。安倍首相が"第4の矢"と表現するように、過去のデータから見ても五輪は株価の上昇や経済効果も期待できる。しかし、いつもながら日本は大きな問題を抱えている。
 下半期、日本経済はどこへ向かうのか。それを特集したのが今週の『週刊エコノミスト』の「2013年度下期経済総予測」だ。アベノミクスを阻害する各方面に存在するリスクを検証する。
 しかし、アナリストによるマーケット予想で平均株価「1万8000円」という予想と「外国人のアベノミクス離れで1万円」との予想が並び、どのベクトルがどう働くかまるで予測不能。とにかく2020年の五輪開催までの時間をいただいたと思って、企業や業界は底力を示してほしいと思った次第。
 第2特集「汚染水で噴出『東電破綻』説」。安倍首相は、五輪のスピーチで世界に向けて原発問題を説明し、「アンダー・コントロール」と言った。世界に向けて退路を断って解決を約束したわけだ。解決への道をひた走ってほしい。


第4位
■週刊東洋経済■ <<<  アップルと日本の関係

 アップルが9月10日、iPhoneの後継機種を発表。しかし、どうやら市場の期待を超えられるものとは言えなかった。
「アップル最大のミスは、ジョブズを死なせたこと」。ジョークではあるが、いや、真剣にそう思っているアップルファンは多い。今週の『週刊東洋経済』の特集は「アップル再起動&電子部品サバイバル」。アップルの可能性とアップルの部品を担う日本メーカーの生き残り策をレポートした。
 前半は、記事「アップルは巻き返せるか」。中国市場とアップル、ティム・クック体制、ポストスマホ戦略など、6つの疑問符が投げかけられる。1つ希望としてあげられる項目は腕時計型デバイス『iWatch』の存在だ。まだ憶測の域を脱していないが、いまだヒット商品を出せていない分野に、ヒットメーカーが参入するのだから。ティム・クックのアップルとして、真価が問われる商品となるだろう。
 後半は、日本部品メーカーの事例を中心に話が進む。秘匿性の高さとアップル依存の村田製作所。徹底的な差別化と勝ちモデルの変化を行う日東電工。その他、独自戦略を打ち出すメーカーが並ぶ。日進月歩の業界は、勝ち続けることは難しい。いつだって正念場なのだ。
 第2特集は「消費増税」。こちらの世界でも、一つの山場を迎えようとしている。迫りくる決断の時、先行きとその重みを計る。また、『昭和財政史』から国内デフォルトを考える。