2013年8月 7日

【来た!見た!書いた!】盤石な安倍政権だからこそ危惧される「政策の不確実性」

政権内部から聞こえ始めた「消費増税先送り」

 7月21日投開票の参院選で、政権運営の基盤を盤石のものとした安部晋三政権。自民・公明両党の圧勝により、野党が参院で多数を占める「ねじれ国会」を解消したことで、政権内部から、昨年末の総選挙で勝利し矢継ぎ早に政策を打ち出していたころとは違った「気の緩み」とも「慢心」ともとれるようなニュースが伝わるようになってきた。
 その代表例は、麻生太郎副総理が憲法改正を巡り、戦前ドイツのナチス政権時代を例示した発言の撤回に追い込まれた件だ。

「憲法改正は静かな環境で議論すべきだ」と強調する文脈の中での発言だったとはいえ、ワイマール憲法のもとでのナチス政権を引き合いに出して「手口を学んだらどうか」と述べたのは適切ではなかった。
 もう1つは、政権内部から消費増税の「先送り論」が聞こえ始めたことだ。
 安倍首相は7月末、来年4月に予定する消費増税による景気や物価への影響を、周辺に再検証するよう指示した。
 指示を受け首相周辺は①法律で定めた通り消費税率を現行の5%から2014年4月に8%、15年10月に10%と2段階で引き上げる②最初に2%上げ、その後1%ずつ引き上げる③5年間で毎年1%ずつ引き上げる④増税を当面見送る――という4つ案の影響を検証する作業を始めたという。
 もちろん安倍首相が指示したからといって、すぐに消費増税先送りが決まるというわけではない。だだ首相が考える4つの案の中に「当面見送る」が含まれたことで、内外の投資家などから「本当に日本は消費増税ができるのか」という懐疑のまなざしで見られることは避けられないだろう。


増税をしないことの方がリスクは遥かに大きい
 安倍政権は、日本で15年ものあいだ続いたデフレの克服に命運をかけている。幸いにも、政権が打ち出した「大胆な金融緩和」「積極的な財政出動」「成長戦略」という3本の矢からなる「アベノミクス」により、景気の回復やデフレの克服の端緒をつかんだ。安倍首相やその周辺が消費増税に慎重になったり、税率引き上げの幅を検討し始めたりするのは、アベノミクスでつかんだ今の勢いを失いたくないという論理からだろう。
 増税は確かに国民に不人気の政策だ。安倍首相には、消費税率を3%から5%に引き上げた1997年度の轍(てつ)を踏みたくない、という思いもあるだろう。このときは消費増税も含めた国民負担増が9兆円近くに上り、景気悪化の一因になったといわれているからだ。
 だが財政悪化が1997年度よりはるかに深刻になった現時点で、消費増税を先延ばししたり、税率引き上げの幅を見直したりすることで、本当に国民の支持を得られるのだろうか。
 財務省によれば、国及び地方の長期債務残高は2013年度末に977兆円に、対国内総生産(GDP)の比率は200%に達する見通しだ。
 一方、税収は国と地方を合わせてもたかだか80兆円にすぎない。そこで広く徴収できる消費税を増やし、高齢化で毎年増え続ける社会保障の制度見直しにも着手し、財政再建も図るというのが、消費増税の論理だ。
 借金と税収の規模を、冷静に比べて考えれば、「増税が景気を冷やす」ことよりも「増税をしないことで日本の財政が破綻する」方が、はるかに大きなリスクであることがわかるはずだ。


国民から指示された理由を見つめ直すべき
 経済学者の池尾和人氏は近著『連続講義・デフレと経済政策 アベノミクスの経済分析』(日経BP社)の中で、安倍政権の経済面での成果は「大方の予想を上回る大きなものであった」と評価したうえで、その理由の1つを「安倍政権の登場自体が『政策の不確実性』を大きく削減することにつながった」ためと分析している。
 将来の不確実性が大きく、先行きの見通しが立てづらいとき、家計は消費を抑え貯蓄を増やそうとするし、企業は設備投資などを先送りしようとする。政府の政策運営事態が将来の不確実性を増やす原因となっている場合を「政策の不確実性」とよぶ。
 2009年に誕生した民主党政権は当初こそ国民の熱い期待を受けたものの、その後は失策続きで、2012年末の総選挙前には、いつどんな政策があるかを国民が全くわからない、「政策の不確実性」が極度に増した状況になっていた。
 総選挙で自民党が圧勝すると、「決められない政治」からの脱却が進むとの期待が増し、実際に政策の不確実性が著しく低下することになった。それが人々や企業のマインドを改善し、それまで抑えられていた支出をするようになった――というのが、池尾教授による見立てだ。
 企業経営者からも「アベノミクスのそれぞれの政策の是非についてはわからないが、政策の一貫性が生まれたことで経営がやりやすくなった」(自動車部品メーカー首脳)という声は多い。
 それでは「政策の不確実性」という点から見た場合、消費増税の先送りはどんな評価になるのか。
 池尾教授は同書の中でこう説く。「増税が実施されても、逆にそれが財政の持続可能性の回復につながり、将来の見通しを曇らせている大きな要因の一つが除去されることになるのであれば、民間部門の自信の修復に寄与します。大切な点は、増税か否かとか、増税のタイミングといったこと以上に、将来の見通しがよりクリアになるか、不透明になるかです」
 消費増税の先送りや修正は日本の財政の見通しを不透明にして、「政策の不確実性」を高めることになってしまうのだ。安倍政権は「なぜ国民から支持されたのか」を、今一度、見つめ直すことが必要だ。

今週の第1位は『週刊エコノミスト』・・・中国「逆回転」/マンション大規模修繕 完全マニュアル

週刊東洋経済 ... 中国「逆回転」/マンション大規模修繕 完全マニュアル
週刊エコノミスト ... 世界経済「出口」の後
日経ビジネス ... 2013年版 アフターサービスランキング
週刊ダイヤモンド ... 相続税対策の落とし穴

 今週はお盆前の合併号で、どこも分厚い特集を組んだ経済誌。だが、夏休みに読むべきテーマを眺めてみると共通するのは「切実さ」。どうも経済誌にも生活感が相当生活感が増したようです。
 だって『週刊ダイヤモンド』の特集は「相続」だし、『週刊東洋経済』のそれは「マンションの修繕」だし。ただ、『週刊東洋経済』の方は若干違いがあり、巻頭に20数ページの特集を持ってきています。このテーマが「中国経済」。逆回転し始めたと言われる中国をフィーチャーして、これが強みとなりました。よって、第1位は『週刊東洋経済』です。
 そして、第2位は同様に中国を意識して「世界経済」に焦点を当てた『週刊エコノミスト』です。震源地となる中国、そして米国の行方を追っています。
『日経ビジネス』は毎年恒例のアフターサービスランキングを特集しました。今回の特長は初めて調査した「証券会社」部門の結果でしょう。トップに立った松井証券をはじめ、ネット証券会社が軒並みランキングの上位を占めたのは面白い結果だと言えるでしょう。
 冒頭でご紹介した『週刊ダイヤモンド』はそういうわけで第4位です。ただ、去年も同時期に同じ企画をやっている同誌のことです。きっと売れるんでしょうね。

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第1位
■週刊東洋経済■ <<<  中国は「リコノミクス」

 今週の『週刊東洋経済』は、お盆前の合併号ということもあり3つの特集が並んだ。
 第1特集は「マンション大規模修繕 完全マニュアル」。6月8日号「マンション時限爆弾」で扱った内容を、管理・修繕に絞った形だ。前回のマンション特集が好評だったのだろう。国内マンションの3棟に2棟が「修繕適齢期」だという。昨今問題の老朽化するインフラ修繕と並ぶニッポンの課題だ。
 さて、今週読むべきは第1特集ではなく、巻頭特集の「中国『逆回転』」だろう。新政権となって、前政権の高成長路線の矛盾が一気に噴出し始め、経済減速による先行きが不安視される中国。李克強首相の経済方針は「リコノミクス」と呼ばれている。「財政出動の抑制」「過剰融資の是正」「産業構造の変革」が3本柱。7月末には、国務院(内閣)から国家審計署(日本の会計検査院)に中央と地方の全政府を対象に債務を巡る監査を行なうよう要請が出された。最大のリスクと目される地方債務問題に中央政府がメスを入れる。シャドーバンキングによって巨額の過剰投資を続けている地方政府や国営企業。これを許した前政権「胡−温体制」。「習−李体制」は経済の失速を前政権に押しつけることはできたにしても、大国をまとめていけるのだろうか。「逆回転」の現状を現地に精通する特約記者を起用し、生々しくレポートしている。


第2位
■ 週刊エコノミスト■ <<<  中国から米国へ、その後は?

 このところ、『週刊エコノミスト』がマクロもので飛ばしている。「マネー大逆流 出口と中国」(7/16号)、「新興国投資の終わり」(7/23号)、「機関投資家の正体」(7/30号)、そして今週(8/13・20合併号)の特集、「世界経済『出口』の後」。同誌のタイトルを見ていくだけで、米中で、あるいはグローバル金融界で阿吽の呼吸で合意されたであろうシナリオが見えてくる。
 先週の『週刊ダイヤモンド』特集、「ヘッジファンドが仕掛けるバブル相場」で機関投資家が読むシナリオとだいたい流れは一緒だ。つまり、「新興国投資は休止し、当面米国を軸とする先進国が世界経済を牽引する」というものだ。米国の「出口」は金融緩和を縮小し正常化する道。中国新政権の意思はこれ以上バブル経済を膨張させてはならないというもの。その軟着陸に挑む過程で、今後も日本は畳み掛けるように追加緩和に踏み切り、なりふり構わぬ景気の底支えに走るとの観測が市場関係者の間に広がっているようだ。8月2日、米国ではダウ工業株平均が2日連続で史上最高値を更新した。米国の景気回復に支えられ、日本も浮上できるのだろうか。
 特集は2部構成で、第1部では「『震源地』中国・米国全解明」と題して、アメリカ、中国、そして欧州の現状分析を行っている。「深化する米中関係 その舞台ハーバード大の実態」が面白かった。第2部は日本について。有力ストラテジストによる年末までの日経平均株価予測もみな上昇、1万5000円以上だ。肝になってくるのが、アベノミクス第3の矢「成長戦略」だろう。民間投資をより早く喚起できるかが今後の行く末を決める。アメリカなどの他国頼みや一時的な金融緩和ではなく、根本的な改革が必要ということだ。『週刊東洋経済』「中国『逆回転』」と合わせて読むとより深いかもしれない。


第3位
■日経ビジネス■ <<< アフターサービスは後始末ではなく第一歩

 今週の『日経ビジネス』は、恒例の特集となった「2013年版 アフターサービスランキング」だ。特集の目の付け所もさることながら、1万7075人の有効回答を集められるネットワークにいつもながら感心する。
 今年は証券会社部門が新設され、既存部門でも5つのトップが塗り変わる結果となった。アフターサービスから企業はどのように見えるのだろうか。まず、初調査の証券会社部門。1位松井証券、2位マネックス証券と5位までネット証券が独占した。ネット証券は、コールセンターに問い合わせが集約されるため、必然的に力を入れざるをえない点はある。しかしながら、各社ともに並々ならぬ思いがある。松井証券では、社員100人に対してコールセンターの人員は150人とのことだ。また育成制度も完備し、質の向上を忘れない。企業の顔ならぬ声は、コールセンターのスタッフになるからだ。
 次に変化を見るとすると、トップが変わった部門。共通することは、対応の速さ。携帯電話・PHSの通信会社でトップになったイー・アクセス。コールセンターのスタッフが手を上げると上司が駆け寄ってくる。解決できない問題に直面した時の顧客対応を早めるためだ。パソコン部門トップになったパナソニックは、持ち込み修理の99%を即日で完了させる。他にも、数々の施策を成功させた企業がランクインしている。それらの企業に共通するのは、アフターサービスを「後始末」ではなく次への「第一歩」と考えていることだ。


第4位
■週刊ダイヤモンド■ <<<  争族回避の相続術!

 お盆前後の特集に通ずるものがある『週刊ダイヤモンド』。2010年は病院。2011年は介護。2012年は相続。今年は昨年に引き続き「相続税対策の落とし穴」を特集に持ってきた。といっても、昨年より特集の重みは増している。2015年1月1日に税制改正が行なわれることが決まったからだ。これにより、今までの相続税対策では効力を失うものもあり、課税対象者は増え、首都圏の持ち家に住む者なら検討が必要だ。
 Part1は「変わり始めた相続節税」。都内の億ションの売れ行きがいいが、相続対策でシルバー世代が購入しているのも背景にあるのだとか。税制改正で変わりつつある節税対策を、メインとなる不動産を中心にタイプ別に解説する。Part2は「贈与は最大の相続税対策」だ。教育資金、住宅補助、生前贈与の3大贈与の徹底活用と注意点がまとめられている。Part3「"争族"回避の相続術」。このパートは実践&心構え編だ。「生前の準備マニュアル」なんてのもある。税制改正で相続税対策が必要な層が増えるいま、時間がある夏休みに読むべき!ってことか。
 第2特集は「産めなきゃ終わりの日本経済」。共働きが増えているのに出産・子育て環境整備はちっとも進まない。 夫婦ともに非正規雇用で出産に踏み切れない人も多い。"マタハラ(マタニティハラスメント)"が横行する職場もいっぱいある。サブタイトルどおり、現状では働きながらの「出産・育児は絶望的」とも言えるような状況だ。