2013年6月25日

【来た!見た!書いた!】復興マネーも異次元緩和もが証明した「供給するだけではお金は回らない」

異常なほど増加した東北3県地銀の預金残高

 東日本大震災からの復旧・復興の過程にある東北地方。政府や自治体は多額の予算を用意して被災地の集団移転を計画し、災害公営住宅を整備するなどしている。だが住民の合意が進まなかったり、人件費が高騰して工事が思うようにできなかったりして、復興の作業は計画通りには進んでいない。
 そのことを示す1つの興味深い指標が、東北の被災地に本店を置く地方銀行の預金残高の推移だ。6月10日の日本経済新聞の夕刊によると、岩手、宮城、福島の3県の地方銀行8行の合計預金残高は、2013年3月期末に19兆8000億円と、震災直後の2011年3月期末に比べ約5兆円、33%も増えたという。

 全国地方銀行協会がまとめた全国の地銀63行の2011年3月期末の預金残高は1年前に比べ2.6%の増加だった。預金残高の増減は通常、せいぜいこの程度の動き方だ。2年前に比べ預金が33%も増えるというのは、空前の膨らみぶりといっていい。
 その原因は、被災した自治体が国から受け取った復興交付金などの公金を銀行に預け入れたものの、当面は使い道が限られるためそのままにしているからだ。
 被災地の個人も同じような事情を抱える。原子力発電所事故の賠償金などを得た個人が銀行に預け入れたが、災害公営住宅などの造成が進まず、住宅の購入までには至っていないのだ。


大掛かりな金融緩和を行なってもダメなものはダメ

 銀行は預金が膨らむ一方で、資金の運用先はなかなか見つからない。3県の8行の貸出金残高は今年3月期末で計10.7兆円と、11年3月期末に比べ10%、9400億円の増加にとどまった。復興の遅れで資金需要が弱い。
 その結果、預金がどれだけ貸し出しに回ったかを示す預貸率は8行全体で54%と、11年3月期末に比べ12ポイント下がった。地銀の平均である70%を大きく下回る。
 これらの数値は、被災地の自治体や個人にいくら復興交付金などのお金を供給しても、お金を使う環境(復興計画)が整っていなければ、被災地の中でお金は回らず、金融機関の預金に滞留してしまうことを示している。
 4月4日に日本銀行の黒田東彦総裁が決めた「大がかりな金融緩和=異次元緩和」についても、同じように「供給するだけではお金は回らない」ということがいえるだろう。
 大がかりな金融緩和は、日銀が世の中に供給するお金の量である「マネタリーベース」を年間60兆円から70兆円も増やし、2014年末の残高を2012年末の2倍に当たる270兆円に増やすものだ。
 マネタリーベースは、世の中に出回っているお札の量(日本銀行券発行高、2012年末で87兆円)と硬化の量(4.5兆円)を合わせた「現金通貨」と、銀行が日銀の中に持っている口座である「日銀当座預金」(同47兆円)を合わせたもので、2012年末時点では138兆円に達している。


日銀の思惑通りに「コト」は進んでいない

  お札は国立印刷局が刷って、日銀がそれを引き取る。日銀は、各銀行が持っている国債や上場投資信託(ETF)などの資産を買って、お札で支払う。このときの日銀から銀行への振込先が日銀当座預金だ。日銀にとっては、こうやって銀行の持つ資産を買い集めることが、お金を社会に供給する、マネタリーベースを増やすことになる。
 銀行から見れば、日銀当座預金にお金がたまったままになっても、無利子だったり、ごくわずかな利子だったりするので、もったいない。そこで銀行は今まで以上に、企業や個人にお金を貸し出そうとする。そうすれば、世の中でぐるぐると回るお金の総量(マネーストック)も大きく増える。物に対してお金の量が増えれば物価が上昇し始め(インフレになり)、景気もよくなるはず――というのが日銀の見立てだ。
 だが少なくとも今までのところ、日銀の思惑通りには進んでいない。
 日銀が5月半ばに発表した4月のマネーストック(通貨供給量、月中平均残高)速報によると、世の中に流通する現金や国内銀行などへの預金の総量(M3)は前年同月比2.6%増の1052兆円だった。
 伸び率は5カ月連続で拡大しているが、前月からの拡大は0.1ポイントにとどまった。日銀が異次元緩和で「マネタリーベースを2年で2倍にする」と意気込んだものの、世の中で回るお金の総量であるマネーストックの伸びはわずか。異次元緩和による「効果」はまだみえていないのだ。


下がるはずが上がってしまった長期金利

 日銀は今回の異次元緩和で、従来の「満期までの期間が3年まで」のものだけでなく「40年債を含むすべて」と長い期間の国債も買う対象にした。満期までの期間がより長い国債の利回り=長期金利を下げて、企業が工場を建てるときの設備投資資金や、個人が家を建てるときの住宅ローンを借りやすくする狙いだった。
 ところが異次元緩和があまりにも大規模だったため、長期の国債の利回り=長期金利は乱高下したあと、緩和前よりも若干上がっている。
 異次元緩和でもマネーストックがあまり増えなかったり、長期金利が乱高下してむしろ緩和前より上がったりしているのは、マーケット=社会が供給されたお金を生かし切れていないことを示している。
 企業や個人は工場や住宅の新設など「投資の機会」がなければ、いくらお金を低利で貸し出すといわれても、借り手にはならない。東北の復興マネーも、日銀による異次元緩和も、その当たり前のことを改めて実証した。

(2013年6月25日)