2013年5月15日

【来た!見た!書いた!】「よそ者が、地元の人よりも「地域の魅力」に気づく理由」

映画になった高知県の県庁

 高知県庁に実在する「おもてなし課」を題材にした映画「県庁おもてなし課」が5月11日、公開された。原作は現在公開中の映画「図書館戦争」と同じく有川浩の小説だ。高知県庁は、観光促進を目的に「おもてなし課」という新しい部署をつくる。そこに配属された、やる気はあるが、いまひとつ要領が悪い掛水史貴(錦戸亮)が、アルバイト女性の明神多紀(堀北真希)や高知県出身の人気作家の吉門喬介(高良健吾)、上司や先輩職員らとともに、高知県の地域おこしや魅力の発信に奮闘する姿を描いている。
 映画はまだみていないが、2年前に出版された原作はとても面白かった。

 この小説の中に、県庁の観光アドバイザーとなった「伝説の元県庁職員」の清遠和政(映画では船越英一郎が演ずる)が、おもてなし課の掛水と多紀を呼び出し、高知市の日曜市を連れて回る場面がある。映画でも日曜市は、掛水と多紀が距離を縮めていく重要なシーンになっているようだ。
「人に揉まれて疲れるだけやないですか」と面倒がる掛水に、吉門は「揉まれるばぁ人が毎週集まる、ということよ。ちょっと視点をリセットしてみい」と話し、南アジアに来た気分で日曜市を眺めることを勧める。市に並ぶ店を冷やかしたり、ツガニ汁を食べたりするうちに、2人は高知の日曜市が「郷土色の強い立派な観光資源」だということに気づく。

300年以上の歴史を持つ日曜市の魅力
 このシーンに代表されるように、原作では清遠や吉門に連れられ、掛水や明神が地元の出身であるが故に気づいていなかった「高知ならではの魅力」に段々と気づいていくことが、物語を推し進める力になっている。地元の人たちが、どっぷりとその地域に浸かっているからこそ気づかない魅力というのは、常にあるものだ。
 掛水や多紀が訪れた高知の日曜市は300年以上の歴史を持つ。毎週日曜日、高知城の追手門から伸びる追手筋という通り1.3キロの道の片側を使い、対面で500から600もの店が並ぶ。店先に並ぶ野菜や果物も、外の人から見ると「見慣れないもの」が多い。私がブンタンのさわやかな味を初めて知ったのは初めて市を訪れたときだったし、やはり市で食べさせてもらった徳谷トマトは関東のトマトとは別のもののように思えたものだ。
 高知を扱った観光ガイドが必ず大きなスペースを使って紹介する代表的な観光地だが、地元の人たちは意外と「日曜市のどこが面白いのか」などと思っている。高知市民に日曜市のことを話すと「昔は行ったけれど、今はわざわざ行かんなあ」とか「意外と、スーパーより値段が高かったりするがですよ」といった答が返ってくるのだ。


誰も行かないような辺鄙な場所が観光地になった
「地元の人が気づかなかった観光資源」という意味では、2011年7月に高知県四万十町にオープンしたフィギュア展示館「海洋堂ホビー館四万十」はもっとすごいかもしれない。
 当初は年間3万人程度の来館を目標にしていたが、4月には累計来館者が15万人を超えた。しかしこの施設ができるまでは、だれ1人としてこの場所が観光地になり得るとは考えもしなかった場所だからだ。
 四万十町は清流・四万十川の中流域として、その知名度は全国的にもそれなりにあるところだ。ただ四万十川はそれこそ「清流」が売り物で、観光客がとりあえずの目的地とするような施設には乏しい。町内には宿泊施設すらほとんどないのだ。
 3月、この海洋堂ホビー館四万十を初めて訪れて、驚いた。比較的高知をよく知っている私ですら、施設ができる前には行こうとも考えなかった場所だからだ。
 最寄り駅は高知県の窪川と愛媛県の宇和島とを結ぶJR予土線の打井川駅。列車は1日片道数本しか通らない無人駅だ。施設は、ここからさらに細い山道を5キロほど車で走った所にある。道は高知特有の車1台分の幅しかないくねくね道で、ときどきすれ違うために道幅が広くなっている。「前から車が来たらどうするか」と心細くなるような道だ。そんな道を20~30分ほど走って、ようやくホビー館にたどり着いた。

過疎地の廃校をいきなりミュージアムに
 ホビー館は、精巧なフィギュアの製造で知られる大阪府門真市の海洋堂が、四万十町打井川の廃校になった小学校を利用して開業した。体育館などを改造した建物には、アニメや特撮のキャラクター、菓子のおまけ「食玩」など1万5000点のフィギュアが並ぶ。
 秋葉原にフィギュアのミュージアムがあっても、驚きはない。だが、ここは四万十川流域の山の中。それこそ豊かな自然以外には何もないところだ。高知の山奥の廃校跡にフィギュアのミュージアムがあるという驚きで、県内外から老若男女が集まる名所に育った。
 海洋堂の創業者でホビー館の館長を務める宮脇修氏は高知県黒潮町の出身。修氏は亡くなった父親の出身地である打井川を、四万十町の関係者に案内してもらったときに廃校になった小学校に出会い、「ここをホビー館にするんだ」と突然ひらめいたのだという。当初は周囲の誰もが反対したが、実際に開館して人が集まり始めると、そうした声は消えていった。
 日曜市の再発見にしろ、四万十町の山奥にフィギュアのミュージアムをつくろうという発想にしろ、地域の魅力に気づくのは地元にどっぷり浸かった人ではなく、よそ者だったり、長くよそで暮らして「外の視点」を持ったりしている人なのだ。

(2013年5月15日)

今週の第1位は『ダイヤモンド』・・・パナソニック 最後の賭け

週刊ダイヤモンド ... パナソニック 最後の賭け
週刊東洋経済 ... 会社の数字
日経ビジネス ... メコン 2020年、新「世界の工場」へ
週刊エコノミスト ... 金利 株 為替

 『週刊ダイヤモンド』が創刊100年を迎えました。創刊が大正2年(1913)です。もっとも、ライバルの『週刊東洋経済』は、明治28年創刊で、既に118年を迎えており、経済誌の歴史の古さを改めて感じます。その『週刊ダイヤモンド』ですが、今週は充実した内容になっています。まずは第1特集で「パナソニック 最後の賭け」と過去最大の危機に瀕する、この大企業を徹底した取材で論じます。これが今週の第1位です。
 第2位は最近の数字ブームにあやかってか「会社の数字」を特集に持ってきた『週刊東洋経済』です。地味な特集ですが、今や年功序列社会は遠の昔、経営者はもちろんビジネスマンも数字に強いかどうかで断然変わってくるのが仕事の中身です。そういう意味ではいいかな、と思いました。
 第3位の『日経ビジネス』は特集でメコン流域圏の経済の可能性に注目しました。メコン川流域には5つの国があり、ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマー、タイとなっています。これらの国が「世界の工場」として発展していく、という特集です。そして、第4位は特集に株や金利、為替を持ってきて今後の動向を予測する『週刊エコノミスト』です。

dia_2013.5.15.jpgtoyo_2013.5.15.jpgnikkei_2013.5.15.jpgeco_2013.5.15.jpg

第1位
■週刊ダイヤモンド■ <<< カドマノミクスから脱却できるか?

 先日、大阪の方に用事があった。今や見る影もなくなってしまったが、大阪の門真市といえばパナソニックの本社がある城下町で、いかにも質実剛健なメーカーの本社というイメージだった。
 一方、先月26日にパナソニックセンター大阪が大阪駅にオープンした。「ナレッジキャピタル(知的創造拠点)」をコンセプトにした複合施設で、立地の良さもあり大変にぎわっていた。そんな変わろうとするパナソニックを『週刊ダイヤモンド』は「総力検証!パナソニック 最後の賭け」と特集にもってきた。
 特集は津賀一宏社長へのインタビューから始まる。「テレビを捨てた男」とセンセーショナルなタイトルをつけ、B to CからB to Bシフトについて語る。その後は、内部資料から"赤字関連工場"マップ、航空機ビジネスなど多角的に"最後の賭け"の行く末を想像しながら読んでいく。ここで注目すべきは、冒頭に書いた門真ムラの論理で、同誌はそれを"カドマノミクス"と揶揄しているが、読むだにその根は深いと感じる。
 同誌の本領を発揮したページは「本誌100年間の記事で検証 パナソニックの経営史」だろう。5月10日をもって100周年を迎えた『週刊ダイヤモンド』。その時々のパナソニックの記事を紹介しながら、日本の家電史を検証している。  
 この他、第2特集に「歪む株式市場」。分析や知識などおかまいなしに上がり続ける株の特集で、第3特集「経営者115人が選んだ『ベスト・ビジネス書』」と併せて、100周年記念特別企画の号らしく、今週号、非常に充実している。


第2位
■週刊東洋経済■ <<<  数字で威力を発揮するのは割り算

「数字に強くなりたい」と考える「会社の数字コンプレックス」を持つ方は多いのだろう。年に1回は『週刊東洋経済』か『週刊ダイヤモンド』で特集が組まれるテーマだ。新社会人需要もあるし。今回の「会計から投資まで知ればカンタン! 会社の数字」は、講義形式の構成だ。基礎編は1時間目から4時間目まで、小宮一慶氏、木村俊治氏ら、会計・経営のプロによる講義とケーススタディ。応用編は「特別講義」。100億円の事業を預かる事業部長になるまで「正直、会計や数字の知識はゼロ」と率直に語るバンダイ上野和典社長は、いまや「数字に強い経営者」として名を馳せる。公認会計士の望月氏、コンサルタントの久保氏は「『業界地図』(東洋経済新報社)から入れ」とか、「威力を発揮するのは『割り算』」とか、非常に取っ付きやすいポイントを挙げてやる気を引き出してくれている。
「歪んだ数字編」では、オリンパスや大王製紙などの不正監査問題を扱う。ラストは「株式投資編」。「銘柄選別に数字力を生かせ!」ということで、業界別に指標となる数字を紹介。実践的だ。
 第2特集は「金利消失 金融大波乱」。今週、黒田異次元緩和後の経済状況を『週刊ダイヤモンド』は株式市場の歪みで切り、『週刊東洋経済』は金利の歪みで切る。金融緩和なのになぜか上昇する国債利回りや住宅ローン金利。異次元緩和でもたらされつつある波乱を読み解く特集だ。


第3位
■日経ビジネス■ <<<  メコン川流域5ヵ国の可能性

『日経ビジネス』も冒頭の「時事深層」でアベノミクスの現状を製造業・国内機関投資家の動きで検証する。円安でも大手の国内生産拠点への投資は増えず、設備投資の大半は海外だ。活況の株式市場だが、国内機関投資家は「絶好の売り場」と捉え、債券市場へとシフトしている。経済界側からの政府への苦言?とも捉えられるレポートだった。
 さて、今週の『日経ビジネス』第1特集は、「メコン 2020年、新『世界の工場』へ」だ。ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムのメコン川流域に位置する5ヵ国は、その潜在能力を開花させつつある。2015年末に域内関税の撤廃、2020年までに地域を縦横断する9本の越境道路網の整備も進む。人件費の上昇や反日感情、成長の鈍化で見えてきたチャイナリスクの表面化も、企業のメコン進出をあと押ししているのはご承知のとおり。域内人口もすでに6億人を突破し、今後の経済発展によって市場としての魅力は計り知れない。
 しかし、なんでいま「メコン」特集なんだろう、と思ってしまうタイミングではある。中韓のASEAN投資が急ピッチで進むなかでの日本経済界の焦りなのだろうかとうがった見方をしてしまう。しかし、メコン川流域が日本の企業における進出ホットスポットとなることは間違いないだろう。何年後かには「ナイル 新『世界の工場』へ」というタイトルが見られるのかな。
 今週から「カルロス・ゴーンの経済教室」の連載が始まった。「リーダーシップは4度変わる」と題して、リーダー論が語られる。


第4位
■週刊エコノミスト■ <<< キャッシュ イズ ナット キング

 今週の『週刊エコノミスト』の特集は「金利 株 為替」。専門家の見方を並べた、この雑誌にとっての王道的テーマ・作りの特集といったところだ。今週は各誌「異次元緩和」以降の金融市場がらみのレポートが多い。ゴールデンウィーク後、円相場も100円をあっさり超え、誰が見ても「Cash is King(現金が最強)」の時代が終わり、リスクテイクの時代に入った日本、いや世界の金融市場。『週刊エコノミスト』も資産運用の手段をインフレ対応に変換することを促す。ここ数年、株式市場は「5月に売りにげろ」と言われてきたが、今年は「5月に売り逃げろ」ではないってことだ。みんなが気にしているのは「このバブルはいつ弾けるのか?」だろう。このお祭りからいつ逃げ切って「今度は損をしないぞ!」と、雑誌も個人もピリピリしている感じだ。

(2013年5月15日)