2013年3月 6日

失敗から学ぶことよりも、成功から学ぶことの方が難しい

「右肩下がり」の12年間では異例の内閣支持率上昇

「右肩下がり」。
 バブル経済の崩壊や「失われた20年」ともいわれる経済の低迷期を経て、我々は売り上げや市場規模、収入などが段々と減ったり縮んだりするこの言葉に慣れてしまった。政権が発足してからの「内閣の支持率」も「右肩下がり」に慣れてしまった事柄の1つだ。
 日本経済新聞社などの世論調査によると、2001年4月に発足した小泉内閣から昨年9月発足の野田内閣までの7つの内閣で、①発足時②1カ月後③2カ月後の支持率が前回調査より上昇したことがあるのは、わずかに小泉内閣のときの「発足時→1カ月後」のみ。まさに我々は「ああまた下がっている」という世界になんの驚きも感じないようになっている。
 その意味で、2月下旬に発表になった安倍政権発足から2カ月の内閣支持率調査には、驚かされた。1月末の前回調査から2ポイント上昇して70%に。発足直後の支持率は62%、1月末は68%なので2回連続して支持率が上昇したことになる。「右肩下がり」が当然のものとなってしまった世界では、きわめて異例なことだ。
 支持率が上がっている要因は、新政権の経済運営への評価だろう。「安倍内閣の経済政策で景気の回復は期待できるか」との問いに対して「期待できる」は56%なのに対し「期待できない」は31%だった。

現政権の際立つ「失言」「失策」の少なさ

 調査期間中の2月22日には、安倍首相がオバマ大統領との日米首脳会談で、環太平洋経済連携協定(TPP)について「すべての関税撤廃を前提としない」ことを確認し、交渉参加へ大きく踏み出した。
 安倍政権の経済運営政策「アベノミクス」の「3本の矢(柱)」は「大胆な金融緩和と」「積極的な財政出動」「成長戦略」。1本目と2本目の矢については、2%の物価上昇率目標の導入で連携するとした日銀との共同声明や、公共事業増を柱とした2012年度補正予算・2013年度予算でしっかりとその方向性を打ち出していた。
 3本目の矢である「成長戦略」については、自民党の支持基盤である農業関係者から反対の強いTPP交渉参加を進められるかどうかが試金石になるとみられていた。政権発足からわずか2カ月で、TPP交渉参加へ1歩前進したことが、内閣支持率を高める1つの原動力になっている。
 この2カ月の安倍政権を見ていて感じるのは、「素直さゆえの思い違い」「単純な誤り」「失言」といった「失策」が少ないことだ。民主党政権下での3つの内閣と比べると、その少なさはより際だつ。
 念願の政権交代をなしとげ、70%を大きく超える高い内閣支持率で2009年9月に始まった鳩山政権。この内閣で国土交通相に就任した前原誠司氏は就任直後に「(群馬県の八ツ場ダムは)マニフェスト(政権公約)に書いてありますから中止します」とあっさりと建設中止を明言した。
 関係者によると、このとき前原氏は純粋に地元の群馬県や同長野原町のためになると考え、ダム建設の中止を明言したという。

反省点や教訓を書き綴った「安倍ノート」の存在

 だが八ツ場ダム事業は住民が反対するなか行政が計画を強行したというダム事業ではなかった。住民は賛成派がほとんどで、反対を唱えるのは地元には住んではいない人がほとんどだ。間違った情勢分析を基に「住民の大半はダム建設に反対している」ととらえたところから、八ツ場ダム問題の迷走は始まったといっていい。
 鳩山首相が普天間基地移設問題で「最低でも県外」と発言したのも、「沖縄県民のため」という善意から出たものだ。民主党政権では、こうしたお粗末な事例があまりに多すぎた。
 とはいえ、政権交代前の自民党政権もほめられた状態ではなかった。
 およそ5年半に及んだ小泉内閣を継ぎ2006年9月に発足した第1次安倍内閣も、その顔ぶれを「お友達内閣」と揶揄され、不祥事続きで支持率を落としていった。そして2007年9月の突然の退陣は「政権投げ出し」との批判にさらされた。現在の「第2次」安倍内閣で失策が目立たないのは、安倍首相や閣僚、そして自民党が「過去の失敗」から何かを学んだからだろう。
 1月27日付の朝日新聞によると、安倍首相には2007年秋の退陣後から気づいた反省点や教訓などをその都度書きつづったノートがあるという。首相はその教訓ノートを折に触れて読み返しつつ、政権運営に当たっているのだ。
 政権発足前から今までに立て続けに施策を提案し続け、内閣の支持率も上昇傾向が続けてきた安倍首相。まずは前回の失敗からさまざまな教訓をくみ取っているとみていいだろう。

「リスクオフ」から「リスクオン」に市場の姿勢が変わっただけ

 ただ今後、安倍首相がつまずく可能性があるとすれば、それはアベノミクスの効果を過大評価したときではないか。
 安倍政権誕生前から為替相場は円安が進み、株価も大きく回復した。内閣支持率が高まった大きな理由の1つはこの「円安株高」が進んだことにある。
 だがそれを「アベノミクスの成果」と見ることは危険だ。為替相場での円安と日本の株式市場で株高が進んだ最大の原因は、世界的な相場観が変化したことにあるからだ。
 昨年半ばまでは、ギリシャ経済の破綻やユーロの崩壊を恐れ、市場参加者がリスクを極端に回避する「リスクオフ」姿勢が支配的だった。ところがユーロ経済の落ち着きなどで、市場参加者がいっせいに、リスクを取ることに積極的になる「リスクオン」に転じ始めた。このことこそ現在の円安株高の主因だ。
 世界的な相場観の変化に、アベノミクスがうまく合致していたことは確かだが、物価目標の導入や積極財政、TPP交渉参加方針だけで、日本経済を変えられたわけではない。
「アベノミクスで日本経済が好転した」。首相がもしこのように見ているとすれば、それはまた新たな失敗のタネとなりかねない。人は失敗から学ぶこと以上に、成功から学ぶことは難しい。

今週の週刊経済誌の読みどころ_2013.3.06

今週の第1位は『週刊ダイヤモンド』

週刊ダイヤモンド ... もう騙されない保険選び
日経ビジネス ... 定年パニック
週刊東洋経済 ... 円安の罠
週刊エコノミスト ... 世界同時株高

 情報においてはネットが幅を利かせる時代ですが、それでも雑誌を読む時には、新しい発見を求めます。世紀の大スクープでなくとも、「へぇ」とか「ほぉ」とかいう情報があると楽しいものです。
 今週は『週刊ダイヤモンド』が保険の特集で、そんな記事を掲載していました。今全国で急速に増えている来店型の保険ショップには、とんでもないからくりがあったことを同誌は暴きました。業界の人は既に知っていることだったかもしれませんが、普通の人は知らないものですね。というわけで、詳しくは同誌をお読みいただきたいのですが、これが今週の第1位です。
 第2位はこの4月1日から本格化する「定年延長」の問題に切り込んだ『日経ビジネス』です。サブタイトルの<会社に姥捨て山を作らない方法>とあり、冒頭のリードのタイトルにも「アナタは『元部長』を有効活用できますか」とあるように、深刻なテーマとして描いています。
 第3位と第4位はどちらもアベノミクスがらみの特集です。で、まずは「円安の危険性」を前面に出した『週刊東洋経済』が第3位。本来第1特集だったと思われる「ネット炎上の処方箋」やユニクロのサービス残業の実態を扱った記事などもあり充実している分こちらに軍配を上げました。
 第4位の『週刊エコノミスト』は世界同時株高をテーマに世界の株式市場をウォッチしています。

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第1位
週刊ダイヤモンド■ <<<  公平・公正が売りの保険代理店の商法

「もう騙されない保険選び」と念を押した『週刊ダイヤモンド』。その言葉には、同誌が昨年4月に掲載した特集「騙されない保険」では、食い止められなかった事への自戒が込められているのだろうか。
 特集で注目すべきは、トップにある「来店型の保険ショップにご用心」。最近増えてきた来店型保険ショップには驚くべきからくりがあったというのがその内容。相談無料で商売が成り立つのは、商品販売による手数料があるからで、それ自体は当たり前で特に問題はないが、その背後に高額なインセンティブが存在するというのである。それも最高でなんと127%にもなる。意味の分からない名称のインセンティブが乱立した結果だ。さらに条件によっては「マッチング・ファンド」なる"退職金"も用意される。来店型の保険ショップはどの保険がその人にとって適切かを、公平・公正な立場から推薦してくれるのが最大の売りであり、だからこそ伸びてきた業態である。ところが、その裏にそんなスキームが存在したとは。今度、保険を勧められたら、内容と共に手数料も聞いてしまいそうだ。
 ことほどさように特集全編にわたって現状の保険への注意喚起がなされているが、結局のところ大切なのは「自分に合った保険選び」をすること。使い古されてしまったが、真を突いた言葉だということがしみじみ分かる。自分で選んでいるようで選ばされていたり、選択肢を狭めていたり。だからこそ、騙されてはいけないのだ。この特集を機に、自分の保険を見直してみてはどうだろうか。

第2位
■ 日経ビジネス■ <<<  40歳定年が幸せへの道?

 来年度から希望者の定年が65歳になる。産業界には賛否両論あるものの、否が応でも制度や働き方が変わってくるのは事実。そこで『日経ビジネス』は「定年延長パニック」と題し、実例を交え新しい会社と社員の関係を紹介した。サブタイトルは<会社に"姥捨て山"を作らない方法>だ。
 定年延長は人件費増加に直接的な影響を与える。その際、無闇に減給をすれば意欲の低下は目に見えている。かといって5年分の人件費を上乗せできるほど体力がある企業ばかりでもない。必要なのは工夫である。再雇用でコースを選択できたり、若手とコンビを組ませOJTの様な形をとらせたりする。自社に合ったシステムが企業を伸ばすのだ。ただし、相も変わらずボリュームが少ないので「人件費と意欲」のみへのアプローチとなったのは残念だった。
 また、もう1つの選択「40歳定年幸せ説」なるものを展開した。今後65歳を超えて70代まで働くようになる日本で、60歳定年では次のチャンスがない。40歳を定年として、よりブラッシュアップしたスキルで次の仕事を持つというものだ。面白い考え方ではあるし、1つの形なのだろう。ただし、誌面後半に書かれるメリットは詰めの甘いものだった。コラムではなく特集になる日を期待したい。
 ちょっと気になったのは、使われている言葉「意欲の低下」についてである。意欲(モラール:morale仏語)という言葉を使いつつ、同時に「モラルハザード(倫理の欠如)」という言葉も使っているのだ。そもそも「モラルハザード」を「倫理の欠如」と訳すのは日本特有(英語では誤用に近い)である。バブル崩壊後の金融関係の事件から使われ始めたように記憶しているが、同誌の特集の内容ではモラール(士気)の低下で、統一した方が良かったのではないだろうか。


第3位
■週刊東洋経済■ <<<  だから円安は危ない

 今週の『週刊東洋経済』の特集は「円安の罠」。『週刊エコノミスト』の特集「世界同時株高」と基本的には扱っているテーマは同じ。このところこの手の特集が多いのはアベノミクス特需の一言に尽きるだろう。同誌は、円安がもたらすであろう「危険性」にスポットを当てている。特集の冒頭では河野龍太郎氏の「アベノミクスのような極端な政策をとってはいけない」という言葉を紹介し、そのすぐ後には野口悠紀雄氏の「円安は、今の日本経済にとってはデメリットの方が大きい」というコメントを引用したりしている。もちろん同誌は日常生活における影響も取りあげるなどしているが、残念なことには、ページ数がちょっと少なかった。
 第2特集の「ネット炎上の処方箋」がしっかりとしていたところをみると、こちらが本来の第1特集だったのかもしれない。一個人の批判や非難という火種が、ソーシャルメディアの普及により大きな問題になり、「炎上」という言葉で代表される事態の悪化がよく目につくようになってきた。
「炎上マーケティング」などと言って、故意に行なうケースすら存在するが、企業としてはそうはいかない。正しいソーシャルメディアとの付き合い方が求められる。というわけで、特集では組織毎の対応や、理由の分類など今まで軽視されがちであった「炎上」への取り組みを紹介している。ただし、ここで示された解答を鵜呑みにしてはいけない。そんなことをすれば、次の特集では失敗例としては掲載されてしまう。自社に求められる距離を把握して、適した対応が必要とされる。もはや、ソーシャルメディアは、社員の顔まで透かしているのだ。
 加えて単独の記事だが、「ユニクロ疲弊する職場」がいいレポートだった。


第4位
■ 週刊エコノミスト■ <<< リフレの次はグレートローテーション

 今週の『週刊エコノミスト』は「世界同時株高」にスポットをあて、最近世界の市場関係者の間でよく使われる「グレートローテーション」の到来による株高の流れを説明している。先週「リフレ」特集もそうだが、次から次へと新語がでてくる。因みに「グレートローテーション(大転換)」は、リスク回避からリスク許容への転換を指す言葉。金融緩和により、安全資産であった債券では本来の利益をあげられず、リスク資産である株へ移行する傾向が出始めているのだ。日本もその恩恵にあずかれるか!? というところなのだが、残念なのは明確な方向性が得られないところだろう。まぁ、確実に勝敗が分かったら仕事にはならないからね。
 そういう意味で、はっきりしているのは新興国市場である。同誌は「ポストBRICs」として東南アジア諸国のいわゆるVIP(ベトナム、インドネシア、フィリピン)やトルコ、アフリカで成長著しいナイジェリアの上昇率をあげ、市場としての伸びしろの存在を示した点が面白かった。高い成長は各国からの資本が流入しているためである。人口増加などを考えれば必然的な流れでもある。 
 ただし、BRICsがそうであったように、これらの国もいずれまた成長のピークを迎える。それよりなにより、日本の経営者が目指すべきは、株高よりももっと大きな産業のグレートローテーションを起こすことだと思うのだが。