2013年1月 7日

今週の週刊経済誌の読みどころ_2013.1.8

今週の第1位は『週刊東洋経済』

週刊東洋経済 ... メイカーズ革命
日経ビジネス ... シリーズ動き出す未来① 幸せな資本主義
週刊ダイヤモンド ... ここまで治る! 超先端医療
週刊エコノミスト ... インフレを学ぶ

 新年早々の経済誌は実は年末には刷りあがっています。予約購読をしている人の手元には年末に届いている。いや、だからつまらないと言っているわけではありません。何といっても新春号です。いい企画が揃っていました。
 そのなかで群を抜いていたのは『週刊東洋経済』でしょうか。特集のテーマはモノ作り。それも、誰でもがメーカー(同誌はメイカーと記述)になれるというものです。それを可能にしたのがデジタル技術です。アメリカでは大きな潮流になろうとしていて、それはいずれ日本にも訪れるでしょう。一読の価値ありです。ということで、これが今週の第1位です。
 次に注目したのは、『日経ビジネス』の特集です。テーマは「幸せな資本主義」。冒頭の記事では、神奈川県の高校生がウガンダのビジネスマンに融資をした、いわゆるマイクロクレジットの話が紹介されています。これが第2位。
 『週刊ダイヤモンド』は山中教授のノーベル賞に沸く「最先端医療」の実情を特集しました。話題の尽きないテーマなだけに、読んでいて結構面白いのですが、『週刊東洋経済』や『日経ビジネス』のような独自の視点とインパクトに欠ける点が残念でした。
 そして、4位の『週刊エコノミスト』はインフレの特集です。 安倍政権も発足し、経済界(とくに地方の)インフレ期待が高まる中で、「ちょっと待て」というスローガンを掲げた特集です。

第1位
■週刊東洋経済■ <<<  誰でも製造業になれる時代

 「メイカーズってなんだ?」と、初めて目にした人も多いだろう。知らなかった人は絶対に読んでおくべき特集だ。
 発明やアイデアと「ものづくり」の間には深い溝がある。実際に関わった人ならわかることだが、そこを越えることができた人しか製造業者にはなれなかった。ところが、3Dプリンターやレーザーカッターによるデジタルなものづくりの進展、インターネットの活用がその溝を埋め、「素晴らしいアイデアさえあれば誰でもメーカーになれる」時代が始まっている。これはもはや「革命」と言うにふさわしいムーブメントだ。というわけで、『週刊東洋経済』の特集「メイカーズ革命」は、工作少年だった私にはわくわくする特集だった。
 そう!「素晴らしいアイディアさえあれば」、誰でも製造業として起業できてしまう! と目から鱗の特集だったのだ。デジタル化で、個人がメディアを立ち上げ、音楽を配信し、映像も世界中の人々に見てもられる環境になったが、ついにものづくりまで行き着いたということか。
 詳しくは本誌を読んでほしいが、原点は「メイカームーブメント」といって、マサチューセッツ工科大学ビット・アンド・アトムズセンターのニール・ガーシェンフェルド所長を始祖とする運動である。彼は「ものづくりによる自己の確立を説き、世界中に市民工房『FabLab(ファブラボ)』のネットワークを広げている」そうだ。US版「WIRED」編集長を辞め、メイカーとして起業してしまったクリス・アンダーセン氏の著書「MAKERS」(NHK出版)は、この分野の必読書だそうで、インタビューにも登場している。


第2位
■ 日経ビジネス■ <<< 「会社員」がなくなる時代

 『日経ビジネス』は年明けから再びシリーズ企画で船出した。「シリーズ動き出す未来」。前回が「100シリーズ」でわかりやすかっただけに、シリーズタイトルだけではいま一つ何をやってくれるのか不明。「編集長の視点」で確認したところ、「この先、起きようとしている劇的な変化をお伝えしていきます」とのこと。意欲的な企画を期待したい。
 1回目は「幸せな資本主義」だ。これも抽象的なタイトルだが、編集長によれば「カネに支配されない価値観を資本主義にどう取り込むか」にフォーカスしている特集だそうだ。リードを紹介しよう。
 「資本主義が岐路に立っている。リーマンショックから既に4年余り。世界経済は今もその傷が癒えない。(中略)資本主義が本来有するはずの『幸福の希求』という意義は失われたかのように見える。18世紀後半からの産業革命以降、急速に発展したこの仕組みに未来はあるのか。世界が模索する『幸せな資本主義』の最前線に迫る」。
 内容的にはもっと掘り下げてほしいところもあるが、「徹底して社会に優しい銀行」とか、「(グローバル企業は)公益性こそ成長の糧」とか、「経営目標は『社員の幸せ』」とか、真っ当なところに立ち返る経済活動を指し示す言葉が記事のあちこちで目につく。結論的な終章には、「『会社員』の終焉」というタイトルが付けられている。その章のリードには「人・モノ・カネが大企業に集中する時代は終わりを迎えつつある。これまで以上に多くの起業家が台頭し、仕事のスキルはネットを介して共有される。資本主義は、組織や国境を越えて『企業と個人』『個人と個人』が結びつく分散型に向かう」とある。「メイカーズムーブメント」と共通する「分散化」は、個人にクリエイティビティとと幸福をもたらすキーワードかもしれない。ある意味では『週刊東洋経済』の特集ともイメージがダブった。
 第2特集、「異色企業家だけに聞いた 2013年大胆予測」も面白かった。


第3位
■週刊ダイヤモンド■ <<< 最先端医療ではげは治るか

『週刊ダイヤモンド』の新年一発目は「超先端医療」を取り上げた。山中伸弥・京都大学教授がiPS細胞(人工多能性幹細胞)でノーベル賞を受賞し、にわかに最先端医療への注目が高まっている気がする昨今、特集では「5年以内に実現する可能性を持つ『超先端医療』を結集した」という。
 ついに実用化ラッシュが始まる再生医療を取り上げるのはPart1.「再生医療の開花」。毛髪、軟骨、角膜などの実用化が期待される製品がずらりと並ぶ。エリートに薄毛がいなくなる日も近い!? Part2.は、がん、認知症、花粉症などへの治療で新展開をみせる「免疫療法の復活」。認知症は発症前の発見がカギだそうだ。がん治療の最先端はPart3.「がん3大療法の変身」。放射線治療、手術、薬物療法、そして延命も狙える緩和ケアがレポートされている。Part4.「日の丸ヘルスケアの正念場」は、国内企業が欧米メーカーの牙城であるヘルスケア部門に切り込めるかを分析する。
 第2特集は、「誰が音楽を殺したか?」。CDの売上げはピークの3分の1、さりとて配信も伸びない苦境の音楽業界。インターネットやスマートフォンの普及によって、サービスが乱立し、収益構造は激変した。国内のヒットチャートが発表された年末に音楽評論家ピーター・バラカン氏が言った「今年の邦楽チャートは悲惨です。これでも音楽と呼べるのでしょうか」という言葉を思い出した。ヒットチャートは握手券のために複数買いするAKBとSKEなどの楽曲で埋め尽くされていた。


第4位
■週刊エコノミスト■ <<< インフレは歴史から学べるのか

 自民党政権が昨年末に復活し、安倍首相率いるアベノミクスが始動しだした。そんな状況下で『週刊エコノミスト』は、新年早々「インフレを学ぶ」という特集を組んだ。全体を眺めた印象は、総じて「アベノミクスに否定的な立場」を取っているというもの。参議院選挙を見越した劇薬的な政策だけに、負の側面が見え始めたときにどうなるか、9人の専門家が見解をまとめている。
 もちろんこの先経済がどうなるかということは誰にも予測はつかない。バブルを心の底で待望している人は多いはずだ。だが、である。アベノミクスでもたらされている円安株高現象の次に起こる「負の側面」の予測は同誌の指摘を待つまでもなくイヤなものだ。
 その手の情報も溢れている。国債の金利が上昇を始めたらどうなるか? 輸入品目の価格上昇で国内製造業や消費者は物価上昇に耐えられるのか? ハイパーインフレは? IMFの介入は? アベノミクスは日本終了のお知らせか? などなど。
 ま、否定的にばかり見ることが良いわけではないので、あとは様子を見るのが妥当かもしれない。
 「海外脱出日記」という囲み記事で、ある不動産会社社長が一家でアメリカに移住した顛末を紹介していたのが面白かった。

【来た!見た!書いた!】 大阪の百貨店の新装開店に見た日本経済の「光と陰」

6年の歳月をかけた改装に沸く梅田の劇場型百貨店

 新年を迎えた1月2日、阪急百貨店のうめだ本店(大阪市)を訪れた。改装に6年の歳月をかけて2012年11月に全面開業した阪急うめだ本店は、この日が今年の初営業日。地下の食品売り場では、うめだ本店と江崎グリコなどによる共同企画の高級ポッキーブランド「バトンドール」に長い行列ができ、各階の婦人物のブランドショップや9階の特設のセール会場も多くの客でごった返していた。
 新しいうめだ本店が掲げるのは、高級ブランドなどで他店を圧倒する品をそろえ、所得水準の高い消費者を西日本全域から呼び込む戦略だ。この日、関東から大阪への里帰り中に初売りに訪れた40代の主婦は「アウトレットを利用することが多くなったけれど、やはり阪急が一番よいものがそろっていて、サービスも良い。改装が終わり、売り場が広がったのでこれからも利用したい」と話す。
 うめだ本店は地下2階~地上13階の15層で、売り場面積は旧本店より3割多い8万平方メートル。開業初年度の来店客数は約5000万人を見込み、初年度の売上高は阪急メンズ大阪を含めて2130億円を目指している。

 もうひとつの特徴は「劇場型百貨店」。例えば9~12階には4層の吹き抜け空間「祝祭広場」を設けた。新年には、ここにその場で商品券が当たる「1万人の大福引」や人気婦人服ブランドの福袋コーナーを設けるなどして、来店客の滞留時間をできるだけ長くするような工夫を凝らしていた。

新装開店の大賑わいも実態は今ひとつ?

 新聞各紙の報道によると、2日の開店前には前年より1000人多い7000人が並んだという。阪急に限らず、百貨店や家電量販店の初売りは総じて堅調だったようだ。衆院選前から進んだ円高の修正や株価の上昇を背景に、消費には上向きの兆しが見えてきたようだ。   
 ただうめだ本店を歩き回って、少し気になることもあった。改装工事に入る前の2000年代半ばにも新年2日の初売りに訪れたことがあるが、その頃と比べると人の出が今ひとつのように感じられたからだ。
 当時は福袋などを目当てに客が殺到し、入口では入場制限をしていたし、婦人服やアクセサリーの売り場は人が多すぎて身動きがとれないほどだった。
 各ショップの福袋にも、2日午後の段階では売れ残りがあった。 特に高額の福袋ほど売れ残っている印象が強かった。
 うめだ本店は改装前と比べ面積が3割も増えており、混み方だけで消費の動向を決めつけるのは適当ではない。だがそれでも、2000年代半ばと比べると、阪急百貨店の初売りに来る客たちから、殺気だつような購買意欲が薄らいでいるような気がするのだ。

百貨店「オーバーストア」状態の背後にあった家電の元気

 考えられる1つの理由は、大阪の百貨店の供給力が過剰になっている点だ。
大阪駅・梅田駅周辺には阪急のうめだ本店以外に、同じエイチ・ツー・オーリテイリング(H2O)の阪神百貨店の梅田本店、J・フロントリテイリングの大丸梅田店、三越伊勢丹ホールディングスの大阪三越伊勢丹の4つの百貨店がある。
 2011年4月の大丸の改装、同5月の大阪三越伊勢丹の開業、そして阪急の大幅な改装開業で4つの百貨店の売り場面積は計26万平方メートルとなり、同じく百貨店が集中する東京の新宿駅周辺の約21万平方メートルを大きく上回る規模になった。
 範囲を大阪市内に少し広げると、競争はさらに激しい。ミナミでは高島屋大阪店、大丸心斎橋店が改装・増床し、日本一高い「あべのハルカス」に入る近鉄百貨店阿倍野本店は2014年に全面開業する計画。大阪市内の百貨店の売り場面積は2005年と比べると5割以上増え、完全な「オーバーストア」状態になっている。
 一方で百貨店の市場は縮小している。大阪地区全体で、この5年間で百貨店の売上高は2割弱減った。百貨店の売上高が下がる傾向は大阪に限ったことではない。ただ、より気がかりなのは、電機など大阪にある主要企業が勢いを失いつつあることだ。大勢の社員を抱える製造業の衰退は、従業員のリストラや所得減を通じて、地域の消費の力を徐々に衰えさせる。
 大阪の百貨店の増床・新築計画が相次いで発表された2000年代半ば。大阪に本社を置くパナソニックやシャープは「国内でのものづくり」を掲げ、関西周辺に大型投資で工場をつくり、日本の製造業を牽引していた。こうした大阪の元気のよさが、百貨店の強気な計画を導いたともいえる。

デパートの顧客「中産階級」にがたがきている

 だがパナソニックやシャープはテレビやスマートフォンの市場で米韓の企業に遅れ、リーマン・ショック後の円高も重なり、急速に競争力を失っていった。大阪府の調査では、府内で働く人の約43%は非正規労働者で、全国平均の35%を大きく上回る(2011年)。新年の大阪の百貨店にところどころのぞく「元気のなさ」は、こうした関西企業の失速による所得の減少が影響しているのではないか。
 阪急電鉄の創業者、小林一三が大阪の梅田駅に「世界初のターミナルデパート」阪急百貨店を開いたのが1929年のこと。ターミナルデパートを可能にしたのは、阪急電鉄沿線をはじめとした京阪神圏に、デパート=百貨店での買い物を楽しめる「中産階級」の層ができつつあったからだ。
 それから80年あまり。小林が構想したターミナルデパートは日本中に広がり、大阪はターミナルデパートの最も激しい競争地になった。だが百貨店の表面的な興隆とは逆に、その前提となった「中産階級」に、がたがき始めている。
 表面的な華々しさと、それを足下から揺るがす経済構造の変化。大阪の百貨店の姿には、日本が直面する経済成長の限界や所得の減少、企業の競争力衰退の問題が凝縮されているのかも知れない。